繊細な演技派が突如イケメン枠に


ではここで今一度、脱イケメンに戻りましょう。イケメンブームも飽和状態で、イケメンの定義もよくわからなくなってきます。音楽でも笑いでも演技でも、いろんな点でイケてればイケメンという感じになってくると、【おじさん】も素敵みたいな流れも出てきます。17年、遠藤憲一、大杉漣、田口トモロヲ、寺島進、松重豊、光石研が主役のドラマ『バイプレイヤーズ〜もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら〜』が話題になり、18年には続編もできました(大杉漣が撮影中に亡くなるという哀しい出来事もありました)。才能もあって長年の経験から醸し出される人間的な魅力もあるかっこいい人たちを【おじさん】として憧れる傾向が生まれます。

そしてついに誕生したのが【おじさん】+【スイーツ(ラブ)】=『おっさんずラブ』(18年、テレビ朝日)です。田中圭演じる主人公が、吉田鋼太郎演じる会社の上司、林遣都演じる同僚から愛されるというドラマは、視聴率的にはさほどではありませんでしたが、ネットを中心に盛りに盛り上がり、グッズは売れまくり、映画化も決定するという、いわゆる「視聴熱」を獲得しました。
田中圭はイケメン最盛期には繊細な演技派として活躍していたのですが、『おっさんずラブ』ですっかりブレイクしました。似た例に、高橋一生がいます。彼も、第2回で取り上げた『池袋ウエストゲートパーク』や『テレビブロス』「好きな男・嫌いな男」特集で好きな男第2位の栄誉に輝くなど、繊細な演技派として活躍していたのですが、ブレイクしたのは大河ドラマ『おんな城主 直虎』や『カルテット』(いずれも17年)で、そこから急激にイケメン枠に入り、朝ドラ『わろてんか』では真っ白いスーツを着てキラキラした御曹司役を担うほどに。
朝ドラ『半分、青い。』で猫を肩に乗せて現れ話題をさらった中村倫也も、前からコツコツやっていたけど急に話題になった、イケメンと非イケメンの間を漂う人物のひとりといえるでしょう。デビュー当時は美少年という風情だった林遣都も今になって再注目です。


2019年のイケメンはこうなる!?


この状況はイケメンブームの終焉か? と不安になる平成の終わりですが、大丈夫、新たなイケメンも登場してきています。1月25日公開の映画『十二人の死にたい子どもたちに』に出る新田真剣佑、北村匠海、高杉真宙などが新世代。ドラマ『中学聖日記』の有村架純の相手役に抜擢された新人・岡田健史も今後に期待がかかります。2.5次元ミュージカルもジャンルとして定着。『刀剣乱舞』が映画化され、主演の鈴木拡樹は19年、大活躍しそう。

最後にひと予想。新元号になる19年に来るイケメンは、歌舞伎の女形男子(おじさん)。『風の谷のナウシカ』が歌舞伎舞台化され、ナウシカに尾上菊之助、クシャナに中村七之助が扮すると発表されました。どちらも美しい女性を演じることに定評あるお方。健気な少女と威厳ある大人の女対決にシビれさせてくれると思います。次元も性別も年齢も超えた歌舞伎の女形にこそ、新時代のイケメンになってほしいです。

【平成イケメン30年史】イケメンの価値観を変えた山田孝之とおっさんずラブ_img1
 
 

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部)

 

著者一覧
 
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映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

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文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

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ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。

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メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

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ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

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ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

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ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。

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ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。