平成最後の泣きおさめ!親子愛に泣ける映画ベスト2_img0
『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』©︎2018「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会

2018年もあとわずか、今回は平成最後の年末年始に映画館で気持ちよく“泣きおさめ”と“泣きはじめ”ができる2本を紹介したいと思います。まずは大泉洋主演の『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』。主人公の鹿野は幼い頃から筋ジストロフィーを患っていて、動かせるのは首と手だけ。それでも自立して生きたいと、ボランティアの手を借りながら暮らしています。この設定を聞いて、無理やり涙をしぼりとられるいわゆる難病もの? と勝手に想像していたのですが、映画がはじまってすぐに予想は裏切られました。

 

この鹿野さん、まぁ態度がデカい…! どこのハーレムかな? 状態で入浴の介助をするボランティアに下手だの何だの好き勝手に言い放題、真夜中に「バナナ食べたい!」なんてことも言い出します。ボランティアのひとり、医大生の田中はダメ出しされてもそのわがままに付き合うのですが、彼女の美咲は観ている側の気持ちを代弁するかのように「無理、無理、無理!」。「障害者ってそんなに偉いの!?」とブチ切れながらも、正直で自由ではちゃめちゃに前向きな鹿野との時間に、いつしか心地よさを感じるようになっていくのです。

きれいごとだけではなく、ユーモアとともに不謹慎ギリギリのところまで攻め込んでいるのが、この映画の嘘のないところ。障害者の性欲の問題からも目をそらさず、田中が一緒にアダルトビデオを見る羽目になるシーンには、かなり笑わせられました。美咲から鹿野への思いについても、愛情なのか同情なのか友情なのか…、微妙な線引きにもズバッと切り込んでいます。

負い目を感じる自分を乗り越えて、堂々と他人に迷惑をかけて生きる。命がけのわがままの裏側には、いつも鹿野がぶっきらぼうな態度で接している母への深い愛情あることがわかる終盤には、胸がつまって涙腺崩壊。表情とわずかな動きで笑わせ、泣かせる大泉洋は、もはや国民的俳優ともいうべき存在感を放っています。今年は『焼肉ドラゴン』にも出演している彼は、マイノリティへのフェアな視線のある俳優さんなんだろうなぁ、ということも頭をよぎりました。

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『22年目の記憶』© 2018 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

もう一本のおすすめが韓国映画『22年目の記憶』。1972年、史上初の南北首脳会談に向けて韓国の大統領がリハーサルを行ったという記事に着想を得て生まれた作品です。金日成の代役に選ばれた売れない役者を演じるのは、この人が出ているだけで俄然期待値アップの安心ブランド、ソル・ギョング。大根役者がシュールな演技メソッドによって金日成になりきっていく描写には、俳優の役作りの過程をのぞくような面白さもあります。

貧しくても幼い息子にたっぷりと愛情を注いでいた主人公は、22年後、なんと自分が金日成だと思い込んだままの老人に。父によって人生を狂わされた息子と、同居することになってからのストーリーもなかなかにアクロバティック。大胆な設定と話がどこに転がって行くのかわからない展開に、すっかり翻弄されてしまいました。トンデモな流れに乗っているうちにいつの間にか、父から息子、息子から父への思いを描くエモーショナルなラストに着地。韓国映画のこの力業、やっぱりクセになる! 奇跡のアラフォー、パク・ヘイルが青年っぽさ全開でハマり役を演じ、目頭が熱くなる瞬間が何度も訪れる人間ドラマです。親子愛が軸になった2本、ぜひ映画館で思いっ切り泣いてください!

<映画紹介>
『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』

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監督:前田哲
出演:大泉洋、高畑充希、三浦春馬、萩原聖人、渡辺真起子、宇野祥平、韓英恵、竜雷太、綾戸智恵、佐藤浩市、原田美枝子
2018年12月28日(金)より、全国ロードショー
© 2018「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会


『22年目の記憶』

平成最後の泣きおさめ!親子愛に泣ける映画ベスト2_img3

監督:イ・へジュン 
出演:ソル・ギョング、パク・ヘイル、ユン・ジェムン、イ・ビョンジュン、リュ・へヨン
2019年1月5日(土)シネマート新宿ほかにて公開
© 2018 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

 

映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部)

 

著者一覧
 
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映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

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文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

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ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。

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メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

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ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

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ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

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ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。

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ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。