こんにちは。編集・川端です。
フィンランド旅のレポートを少しづつアップしますね。「今、ヘルシンキにきています」というInstagramをアップしたら、ミモレの美容コラムでもお馴染みの安倍佐和子さんから「アルヴァ・アアルトは見てきて」とコメントを頂いたんです。おお、それは行かなくては!と。自宅とアトリエが一般公開されているんですね。

フィンランドを代表する建築家アルヴァ・アアルト。今年生誕120年を迎え、日本でも大展覧会などが催されていました。

そんな巨匠・アアルトの自宅は、ヘルシンキ中央駅からトラムに乗って20分くらいの郊外にあります。ヘルシンキの街は小さくて、トラムや電車に乗らなくても大抵のところへは徒歩で行けるので、20分もトラムに乗ったのはこの時が最初で最後でした。4・4Tトラムの終点駅の2つ前くらいLaajalahden aukio 駅で降りて少し歩きます。

日本なら「アアルト自邸はこちら⇨(あと00m)」みたいな看板が最寄り駅から至るところにドーンとあるに違いないのですが、フィンランドってば、アアルト邸に限らず、観光スポットへの案内とか看板がほとんどなくて。トラムから降りた乗客も私ひとり。暗くて、人っこひとり歩いていないシーンとした住宅地(これぞ静寂。自分の息しか音がしない世界)を歩きながら、不安、、、不安しかない。この道で本当にあってるのかな〜。誰もいないな〜。 雪も降ってきたよお(涙)

Googleさん曰くココなんだけど……。北欧を代表する建築家の自宅とは、どんな大邸宅だろうと想像していたのに、びっくりするくらいひっそりと小さな玄関。もちろん「ここがアアルトハウスでっせ!」みたいな看板などはなく。柵の中に入っていっていいのか、不安しかない。

勇気を出して近づいてみると、緑の板にツアー時間、入場料などが書かれていたのです。「字が小っさいわ!!」と思わず日本語でひとりごちましたよね。

こちらが入り口のドアと案内板。ホウキも出しっ放しだし。

勇気を出してドアを開けると、 「今日最後のガイドツアーが始まるから、急いで靴とコートを脱いで中へどうぞ」とお姉さん。ガイドツアーは1時間に1回のペースでやっていて、入場料込みで18ユーロ。予約などは特にいりません。

照明の向こうの人が俳優さんみたいなイケメンでいい声のガイドさん。私が参加した回は、イタリア系のファミリーやフランス人のカップル、老夫婦、学生さんなどヨーロッパ各国からきたらしき観光客が15人くらいで、いろんな国の言葉が飛び交っていました。

 アアルト自邸の私の一番の印象は「日本の家っぽい」。

「おばあちゃん家に久々に来た」みたいな懐かしさと落ち着く感じがあります。

アアルトがデザインした世界的に有名な椅子やテーブルがゴロゴロと無造作に置かれていること以外は、巨匠の家を見学させてもらっている緊張感のようなものが全くないんですね。 

私は今、マンションに住んでいますが、この先、もし家を建てることがあったら…あるいはリフォームすることがあったら、真似したいなあと思ったポイントがいくつもあったのでご紹介しますね。

●自然光こそ最高の贅沢!


冬の日照時間が非常に短い北欧ならでは、とにかくちょっとでも太陽の光を感じたい!という強い想いが家の随所に感じられます。

比較的、天井が低めのアアルト邸の中で、唯一、天井が高いのが仕事スペース。2階と吹き抜けになっていて、2メートルくらいの高さから上に窓が取られています。
ウォークインクローゼットの天井にも、無理やりこじ開けたみたいな窓が。自然光の下で服を見たいから、なんですって。
こちらが子供部屋。日本の家っぽいですよね。面白いなと思ったのが、勉強机を壁向きじゃなくて、窓に向かって置いていること。
 
もう一つのお部屋もデスクが窓を向いています。部屋のドアが開くギリギリのところに机を置こうなんて、普通あまり思わないですよね。
アアルト自身の仕事スペースは、L字に窓。どんだけ窓に向かいたんだー! 窓のそばはもちろんすごく寒い。暖房で取り囲んで、外が見たい、外の光を浴びたいという強い想いが感じられますね。

●ものを置いて完成する仕切り


建築物としての豪華さはあまりありません。アアルトの名言に「建築における唯一の正しい目標は、自然に建てるということだ。やりすぎてはいけない。正当な理由がない限り何もすべきではない。余分なものはすべて時間とともに醜くなる」というものがあります。

2階のリビングスペースはあまり広くありません。圧迫感がないよう壁ではなく格子で空間を仕切っているそう。大きめの絵を置くことで、格子の向こう側のトイレに出入りする人が丸見えにならないとか。絵で人の目線を遮断したり、注目をそちらに集めたり、というテクニックはいろんなところで見られました。
出窓スペースに植木鉢が埋まっていて、中に砂利が敷いてあり、その上に植木を並べていました。これの意図は聞きそびれてしまいましたが、窓の下は暖房器具があるので、熱くなりすぎて植木が枯れないように、かもしれません。中庭と地続きのように感じられて、庭もリビングも広く感じます。

 ●その部屋の主役にだけ光をあてる


家の中が暗い時間が長いだけに、光の使い方がとても丁寧だと感じました。

他の部屋は壁が真っ白なのですが、ダイニングルームだけ壁がダークなえんじ色。食卓と座った人たちだけが明るく浮かび上がります。

アルヴァ・アアルトの代表作に「〈パイミオのサナトリウム〉の病室 」があります。

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一見、冷たい病室に見えますが、アアルトの”優しい工夫”がいろいろとあって、彼を一躍有名にした出世作でもあります。病人はベッドに横になっている時間が長いので、天井に照明がないこと、常に頭が涼しく足元があったかいようにラジエーターが作られていること、洗面台の水の音がうるさくないこと、などの配慮がされているそう。

そこで時間を過ごす人が、どんな体勢で、どんな光を目にするのか、どんな音を耳にするのか、それが快か不快か、ということが重要なんですね。

そう考えると、アアルトの家は、照明の位置が高い位置にあったり、胸の高さくらい低い位置にあったり。人がどの高さで過ごすことが多いのか、照明が目に入ったほうがリラックスするのか、入らないほうがいいのか、よく考えられていることに気づきます。よく考えた上で、ものすごく最小限です。

「余分なものはすべて時間とともに醜くなる」とは、厳しくも深いお言葉。インテリア以外のことにも通じそうですね。

もうちょっと案内板は大きく出してくれてもいいのになあと思いつつ(笑)でもそんなスピリットはよく理解できました。

“ほっこりしてない北欧”レポートは続きをまた!

年末は、2018年のベストブックも発表予定です〜。