60年代のロンドン。

そう聞いて、マリー・クワントのミニスカート、ヴィダル・サスーンの直線的なボブスタイル、ビートルズやストーンズなどに代表されるロックンロール……そんなUKストリートカルチャー“スウィンギング・ロンドン”を思い浮かべた方も多いのでは? 私はもちろん生まれていないのですが、この時代のカルチャーを掘り下げるのは好きで、触れる度に「タイムスリップできるなら、この時代のロンドンで青春を過ごしたい!」と夢想したものです。

そんな私の頭の中の「LOVE♡スウィンギング・ロンドン」欲を満たしてくれる映画『ロンドンをぶっとばせ! マイ・ジェネレーション』が本日公開しました。

『ハンナとその姉妹』『サイダーハウス・ルール』で2度のアカデミー賞を受賞している、英国の盟友マイケル・ケイン(写真)がプロデューサー兼ナビゲーター。ビートルズ、ストーンズ、ザ・フー、マリアンヌ・フェイスフル、ツィッギー……時代の証言者によって、音楽、ファッション、アートなどの文化の発信地だったスウィンギング・シティ=ロンドンの当時のエネルギーがギュギュッとつまったドキュメンタリー。ちなみに、1960年代後半は世界の全人口の約半分が25歳以下だったのだそうで、巨大なユース・カルチャー市場が誕生し、社会そのものを揺り動かし、活性化していた様子がよくわかる作品です。© Raymi Hero Productions 2017


公開にさきがけ行われた一般試写会で、観賞後、本作の字幕監修をつとめたピーター・バラカンさんのトークショーが行われました。60年代のロンドンの話を聞いているはずなのに、なぜか「現代社会で人はどう生きるべきか?」の話を聞いているかのような錯覚に!?

今作は、当時の音楽がカラフルにちりばめられているのですが、ピーターさんに解説されるとまた格別。映画は終戦直後のロンドンの街が映る冒頭のシーンでキンクスの『Dead End Street』が鳴り響きます。つまり、袋小路。その貧しく質素な暮らしの印象が強くなり、アニマルズの『We Gotta Get Out of This Placce』(ココを逃げ出さなくちゃ)につながっていきます。映画(時代)が進んで行くと、ローリング・ストーンズ『Satisfaction』、ザ・クリームの『I Feel Free』へと続いていく……そして、最後は、ストーンズの『You Can’t Always Get What You Want』(思い通りにはいかないよ!)。使われている音楽を追いかけるだけでも、激動の60年代を生きた若者たちの気持ちの変容が体感できるというものです!

「当時のロンドンは、上流階級、中産階級、労働者階級という身分が明確にされていた階級社会。“イギリス人は口を開けば誰かに嫌われる”と言われるほど、アクセントで階級を判断、それによる差別が横行していた。そこに現れたのがリバプール訛り(当時、訛りがあるのは、ほとんどの場合、労働者階級出身者であるとされていた)のビートルズ!!!  イギリスの階級制度がそれにより一気に消えたわけではなく、今でも口を開いた途端に育った環境で判断される場面があると思うけれど、この60年代に社会の様々な既成概念が大きく変わったのは事実」とピーターさんは言います。ちなみに、日本をそれに置き換えると、「出身大学で人を判断しようとすることが似ているかも」と言われていたことも印象的でした。

ツィッギー!
ポール!
マイケル・ケイン(若い)!

そして、階級社会に対してのみではなく、退屈と安定を好んだ(と若者からはうつっていた)50年代の親世代へのカウンターとして、60年代のユースカルチャーが爆発したこともヴィヴィッドにあぶりだされていきます。そう、スウィンギング・ロンドンは、階級社会や「大人はエライという保守的な考え方」に対して、労働者階級の若者たちというマイノリティたちが主役に躍り出て下克上をなしえた時代だったのです。

ピーターさんは言います。「劇中のケインが言うように、若さとは年齢ではなく心のあり方。僕だって、自分の頭の中は18歳のままだ、と思っていますから(笑)。とにもかくにも夢は大きく、冒険心をもって!」と。

世界中にはびこっていた既成概念を若者たちがひっくり返した60年代。あれから半世紀。さまざまなハラスメントが問題視され、社会問題が日々噴出しています。

私たちは、再び自分たちを縛る既成概念を自ら瓦解することはできるのでしょうか?

Bunkamuraル・シネマほか。小学生以下のお子様が視聴する際、保護者の助言・指導が必要なPG12作品(ドラッグの話が出てきます)。多感で、ちょっと時代に懐疑的で、自分なりの未来を模索している中学生や高校生のお子様がいる方は、ぜひ一緒に観ていただきたいです!

今日のお品書き
「奇をてらわずに、こんなにおしゃれに見えるのが憧れだわ」と誰もがウットリしていしまう、パリコレスナップの常連、フランス版ヴォーグの編集長、エマニュエル・アルト。私もずっと注目しておりました。ジャケット、クロップト丈のパンツ、そしてパンプス……とにかく不変! やっぱりスタイルってこういうことなんだなぁ。