“女性をはじめとする多様な人々が活躍する豊かな社会”を目指すイベント「MASHING UP」が開催されました。Bravery(勇気)& Empathy(共感)をテーマに行われた多彩なセッションから厳選して、その内容をレポートします。

歌手、俳優、演出家の夏木マリさんとミモレ編集長・大森葉子が登壇した『ファッションを通してみる自分のアイデンティティ』では、自分らしさを求めつつも周りから外れることが怖い、そのジレンマについて夏木さんから熱い回答が。さらにセッション後の個別インタビューでは、ミモレ世代なら多くの人が体験しているであろう、“女同士の嫉妬”について詳しくお聞きしました。女性たちの気持ちをちょっと軽くしてくれる名言連発です!


失敗しなければ、自分の本当に好きなものは分からない


ファッションは本来、好きなように楽しむべきものなのに、そのために悩んでいる人があまりにも多いーー。ミモレ編集長・大森は、メディアに携わる人間としてそのジレンマを日々感じているといいます。

 

「読者の方から寄せられる悩みの多くが、自分に似合うものが分からない、自信がない、というものなんです。みんなファッションが大好きな方たちなのに、こんなにもファッションで苦しんでいるのはなぜなんだろうと、見ていてとても悩ましい。悩んで悩んで悩んだ挙げ句、結果的に同じようなファッションに落ち着いてしまうという印象はあるかな、と」(大森)

「日本は昔から“みんなと一緒”をよしとする教育だから、自由な時代になったとはいっても、まだまだ冒険しづらいのかも。あとはみんな、洋服以前に自分のことが分かっていないんじゃないかしら。私はよく女性誌などで読者からの相談を受けるのだけど、みなさん自分のことをものすごく考えているのに、じゃあよく分かっているかというとそうでもなくて。考えただけで終わってしまっている人も多い気がします。

最初からうまくいくことなんてないんだから、まずやってみて、失敗しないと。私も、人前に出る仕事だから成功例しか見ていただいてないけど、その裏では山のように失敗してきましたよ。洋服には、それこそひと財産は使ったかな(笑)。自分を知ることができれば、好きなものいらないもの、必要なものもそうでないものも分かってくるはず。みんな失敗を怖れるから、どれを選んでいいか分からなくなるのよね」(夏木さん)

「ウェブの世界を見渡すと、誰もが“手っ取り早い正解”を求めているように感じることがあります。ちなみに私、夏木さんの著書の中に好きな一文があるんです。『似合わないと思っても、とにかくトライ。似合ってなくても別に死なない』っていう(笑)」(大森)

 

「そう! 失敗したって死にゃしないの(笑)。自分にとって本当に価値があるものは、そう簡単には手に入らないようになっていると思うんです。どうしても欲しいなら、多少は痛い思いもしないと。それに人は、ちょっと傷ついたくらいのほうが学習しますからね」(夏木さん)


自分らしさとは、人との違いを楽しむこと


「自分の好きなものが分からなくなってきた、という方も多いんです。分からなくなると、とりあえず周りに合わせておこうとする傾向にあるのかな、と。ファッションは自己表現のツールだと思うのですが、“空気読んでおこう”みたいなところに落ち着いてしまうのはもったいない、と」(大森)

「自分らしさとは本来、他人との違いを楽しむことのはず。べつに奇をてらうのがいいということではなくて、自分にとって心地いいものが、たまたま人と違っていたとしてもいいじゃない、ということ。周りとズレていなければ安心、という感覚には、むしろ怖さを感じるなあ」(夏木さん)


好きなことに熱中することで、自分に自信が持てた


他人と比べてしまいがち、これは服を着こなすための容姿についても同じことがいえそうです。とくに女性は、自身の容姿のどこかしらに不満を抱いているもの。夏木さんも、自身のコンプレックスを克服するにはそれなりの時間がかかったとか。

「ファッションは自己表現と同時に、自分を知るためのツールでもある。体型などのコンプレックスにも日々向き合わなければいけないから、好きなファッションを追い求めるのって実はけっこうしんどい作業でもあるのかなと思います」(大森)

 

「とはいえ、持って生まれた身体は変えようがない。変えられないならどうするか、って話。私も以前からずっと、自分の顔が嫌で。だってこの男顔、ほんとにモテないから(笑)。でも今は好きですよ。私は『印象派』という舞台を25年続けているんですが、ある日、集中してリハーサルしていた時のすっぴんがとてもいい顔をしていたのね。“ああ、悪くないな”と思って、それからは自分に自信が持てるようになりました。好きなこと、やりたいことに熱中している時、人はいい顔をするものです。仕事してる時の男がかっこいいのと同じでね」(夏木さん)

セッションの最後には、参加者から夏木さんへの質問タイムも。切れ味抜群な回答から、一部をご紹介します。

——アンチエイジングという考え方についてどう思われますか?

「アンチエイジングという言葉、私は嫌いです。歳をとるのは仕方のないことですから。シワが増える分、朝からパックだなんだとやることが増えるのは大変だけど、これは年齢を重ねた女のノルマ。あれこれやらなきゃいけないのが悲しいのであって、シワが増えることが悲しいのではないの。どうせ増えるなら、きれいなシワになるようにいつも美しい話し方を心がけよう、とかね。そういうふうに考えたいなと思っています」(夏木さん)

——嫌いな人との上手な付き合い方を教えてください。

 

「私、嫌いな人はまわりにおきません。なので今となっては友達少ないです(笑)。若い時なら友人は多いほうがいいと思うけど、60も過ぎると体調管理とか肌のメンテナンスとか、自分と向き合うのに一生懸命でとにかく時間がないの!(笑)。だから、わざわざ嫌いな人とまで付き合いませんね。近くにマイナスオーラの人がいると、自分までマイナスになってしまってよくないでしょ。それよりも好きな人をどんどん増やして、プラスのオーラに囲まれるほうが絶対にいいですよ」(夏木さん)

ふとしたひと言に思わず唸り、豪快な失敗談に爆笑。50分のセッションは大いに盛り上がりました!
後半では、夏木さんへの特別インタビューをお届けします。


写真/塩谷哲平
文/山崎恵
構成/柳田啓輔