ミモレで連載中の「毎日、美智子さま」の写真を拝見して、自分の心まで清らかになったような錯覚に陥っている今日この頃、期せずして映画界では英国女王ものが1月、2月、3月と連続で公開されます。
まずは1月25日に公開されるのが『ヴィクトリア女王 最期の秘密』。ヴィクトリア女王即位50周年記念式典で記念金貨を贈呈する役割を与えられた青年が英領インドからイギリスへとやって来ることで、物語が動きはじめます。式典では女王と目を合わすべからずと言われていたのに、うっかり無邪気に笑いかけてしまったアブドゥル。秘書たちはハラハラするわけですが、ヴィクトリア女王は彼に興味を持ち、従僕としてそばに置くことにするのです。金貨はお気に召しましたか? と秘書に聞かれて「のっぽがハンサムだったわ♡」と答えるヴィクトリア女王の表情は、推しのアイドルを見つけた十代の女の子のよう! インド人の青年に興味を持ったことで異国の文化や言葉を知り、どんどん偏見がなくなっていく様子は、K-POPを入口に韓国語を学ぶ流れを見ているようで、やっぱりどの時代でもアイドルの力は偉大だわ、と思いました。ヴィクトリア女王にしてみれば好奇心とときめきに身を任せた結果かもしれませんが、国境も宗教もひょいっと超えていく彼女の生き方は、現代の多様性を先取りしているといえるかもしれません。
『女王陛下のお気に入り』(2月15日公開)は大映ドラマもびっくりのドロドロっぷりで、アカデミー賞に向けた今年の賞レースでも話題を呼んでいるコメディです。コメディとは言っても、『ロブスター』などスター俳優を起用して気まずい笑いを生んできたギリシャの鬼才、ヨルゴス・ランティモス監督だけに、そこまでやるか…! 的な場面が続々と登場します。主人公は何人もの子供を亡くし、大きな体を持て余すようにして暮らす孤独で癇癪持ちのアン王女。政治のことからメイクのことまで、クレバーな幼なじみのレディ・サラが裏で操っています。そこに貴族から没落したサラの従妹、アビゲイルがやって来て召使いとして働くことに。女王陛下の“お気に入り”をめぐって頭と体を使ったとんでもないパワーゲームが展開していきます。人間のダークな部分を表現する女優陣はそれぞれに観る者を惹きつけますが、なかでもアビゲイルを演じたエマ・ストーンには、悪事を働いているのになぜかエールを送りたくなる魅力がたっぷり。グロテスクでありながら奇妙な美しさのある世界観は、ピーター・グリーナウェイ監督作品あたりが好きな人にもぴったりとハマりそうです。
『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』(3月15日公開)、このタイトルを聞いた瞬間「1年の半分は冬将軍の支配するこの国…」と“ガラスの仮面シンドローム”を発症させてしまう人も多いのでは!? ガラかめの『ふたりの女王』のモデルになっているのではという説もある、メアリーとエリザベスの物語が描かれています(ちなみに『ふたりの女王』を読み返したくなった方のために、文庫版では14~16巻あたりです!)16歳でフランス王妃となり、18歳で未亡人となってスコットランドへと帰国したメアリー・スチュアート。メアリーはエリザベス1世が統治するイギリスの王位継承権を主張しますが、ふたりは様々な陰謀がうごめく宮廷のなかで過酷な運命に翻弄されていきます。若くして出産も経験した美しい自信家のメアリーと、彼女に対して言葉にできない感情を抱くエリザベス。シアーシャ・ローナンとマーゴット・ロビーが鮮やかな対比を見せ、時代が違えばつながりあい連帯できたかもしれないふたりの女王が対面して心の内を明かす場面には胸が詰まりました。『ダンケルク』のジャック・ロウデン、『女王陛下のお気に入り』にも出演しているジョー・アルウィンなど若き英国俳優も、意外な役どころで楽しませてくれます。
3本とも製作が決定した時期は違いますが、その背景にはお祝いラッシュにわく現在の英国ロイヤルファミリーの人気があることは間違いなさそう。うち2本を配給する宣伝ウーマンたちとなぜこのタイミングなんだろう? と話していたところ「描かれている時代は違っても、男性社会のなかで戦いながら生きた女王の物語には現代性があるのでは」という納得の声も聞こえてきました。
ヴィクトリア女王の若き日と、夫となったアルバート公との愛を描いた『ヴィクトリア女王 世紀の愛』。ジュディ・デンチが『ヴィクトリア女王 最期の秘密』以前にヴィクトリア女王を演じ、夫亡きあとの従僕との恋を描く『Queen Victoria 至上の恋』。ケイト・ブランシェットがエリザベス一世を演じた『エリザベス』など、女優の底力が存分に発揮されている関連作を次々と観たくなるのも、英国女王ものの面白さ。時代が移り変わるこの時期、ロイヤルファミリーの世界に浸ってみてはいかがでしょうか!?
<映画紹介>
『ヴィクトリア女王 最期の秘密』
監督:スティーヴン・フリアーズ 脚本:リー・ホール
出演:ジュディ・デンチ、アリ・ファザル、エディ・イザード、アディール・アクタル、マイケル・ガンボン
1月25日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
©2017 FOCUS FEATURES LLC.
『女王陛下のお気に入り』
監督:ヨルゴス・ランティモス脚本:デボラ・デイヴィス
出演:オリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ、ニコラス・ホルト、ジョー・アルウィン、ジェームズ・スミス、マーク・ゲイティス、ジェニー・レインスフォード
2月15日(金)より全国ロードショー
©2018 Twentieth Century Fox
『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』
監督:ジョージー・ルーク 脚本:ボー・ウィリモン
出演:シアーシャ・ローナン、マーゴット・ロビー、ジャック・ロウデン、ジョー・アルウィン、ジェンマ・チャン、マーティン・コムストン、イスマエル・クルス・コルドバ、ブレンダン・コイル、イアン・ハート、エイドリアン・レスター、ジェームズ・マッカードル、デヴィッド・テナント、ガイ・ピアース
2019年3月15日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamura ル・シネマほか全国ロードショー
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映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。
文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門1&2』(アルテスパブリッシング)など。
ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。
メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。
ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。
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1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。
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テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。
映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。