油も水も絶って、結局倒れる
一話では三島視点で描かれていたものが、四話では四三視点になっていて、多角的です。宮藤さんの『監獄のお姫様』(18年)もそういうところがありましたが、多角的な視点を用いた傑作といえば、映画『桐島、部活やめるってよ』(12年 吉田大八監督)でしょう。同じシーンを複数の登場人物の視点で何度も描いていました。主人公は神木隆之介さん。『いだてん』では、昭和編のほうで、誰の子どもか謎の五りん(志ん生の弟子)を演じています。
その五りんはどうやら大塚仲町の足袋屋・播磨屋と関係していることがわかります。おかあさんがつとめていた店だとか。
播磨屋はこれから四三の走りに重要な影響を与えます。店主・黒坂辛作役はピエール瀧さん。
黒坂が用意した足袋をはいたときの「あ……」というフィット感が見ているほうにも伝わってきました(演出の一木正恵さんの担当する番組は、映画のような余韻のある場面があります。朝ドラ「まれ」や「運命に、似た恋」など)。播磨屋の子供もまたかわいい。
やっぱり靴は大事です。足袋の機能を生かしたランナー用の靴のほかに、一般向けにも足袋靴はいろいろ出ています。私もナイキのエアリフト(気合の入ったゴールド)をもっていました。
四三は勝つために、油抜き走法を実践。油も水も絶って、結局倒れてしまいます(力石徹か!という声多数)。
赤ゲット(田舎ものの象徴の赤い毛布)を頭からかぶって横に倒れている姿は、タラコのキューピーちゃんのCMのホラー版のようで目に焼き付いて離れません。
結果、得た教訓が「自然に従う」。
我々がダイエットと闘うときと同じような感じがして、四三に親しみを覚えました。
がんばれ、四三!
【データ】
大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』
NHK 総合 日曜よる8時〜
(再放送 NHK 総合 土曜ひる1時5分〜)
脚本:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
演出:井上 剛、西村武五郎、一木正恵、大根仁
制作統括:訓覇 圭、清水拓哉
出演:中村勘九郎、阿部サダヲ、綾瀬はるか、生田斗真、森山未來、役所広司 ほか
第五回 「雨ニモマケズ」 演出:井上剛
四三が韋駄天となった、羽田の大運動会のもようがしっかり描かれる?
ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。
文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門1&2』(アルテスパブリッシング)など。
ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。
メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。
ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。
ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。
ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。
ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。
映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。