タレントの栗原類さんのADD(注意欠陥障害)や、SEKAI NO OWARIのボーカル・深瀬彗さんのADHD(注意欠如多動性障害)など、多くの有名人が自身の発達障害を公表し始めたこともあって、近年、その社会認知が急速に広まりつつあります。しかし多くの人はまだまだその知識に誤りがあり、子供または自分自身の発達障害に気づけず、社会生活が困難になっていることも多いようです。児童青年期精神医学を専門とし、『発達障害の子どもたち』(講談社現代新書)の著書も刊行している杉山登志郎医師が、発達障害の最新知識と治療について分かりやすく解説してくれています。

発達障害は親のせい? 誤解と偏見が改善を遅らせる_img0
 

発達障害に対する親たちの誤った意見


まずは発達障害の子どもを抱える家族から聞くことが多い意見を挙げたい。

<幼児期の発達障害の子どもを持つ両親に多い意見>
・ 発達障害は病気だから医療機関に行かないと治療はできない。
・ 病院に行き、言語療法、作業療法などを受けることは発達を非常に促進する。
・ なるべく早く集団に入れて普通の子どもと接するほうがよく発達する。
・ 偏食で死ぬ人はいないから偏食は特に矯正をしなくて良い。
・ 幼児期から子どもの自主性を重んじることが子どもの発達をより促進する。

<学校進学を控えた子どもを抱える家族に多い意見>
・ 発達障害は一生治らないし、治療方法はない。
・ 発達障害児も普通の教育を受けるほうが幸福であり、また発達にも良い影響がある。
・ 通常学級から特殊学級(特別支援教室)に変わることはできるが、その逆はできない。
・ 養護学校(特別支援学校)に一度入れば、通常学校には戻れない。
・ 通常学級の中で周りの子どもたちから助けられながら生活をすることは本人にも良い影響がある。
・ 発達障害児が不登校になったときは一般の不登校と同じに扱い登校刺激はしないほうが良い。
・ 養護学校卒業というキャリアは就労に際しては著しく不利に働く。
・ 通常の高校や大学に進学ができれば成人後の社会生活はより良好になる。

おのおのについて、皆さんはその是非をどのように思われただろうか? これらはすべて、私から見ると誤った見解か、条件つきでのみ正しい見解であって、一般的にはとても正しいとは言えない。なぜ正しくないか、詳しくは私の著書を読んでいただければと思うが、このように発達障害についてはまだまだ大きな誤解や完全な誤りがあるのが実情である。
 


現在の発達障害のタイプ分けについて


ひと口に発達障害といっても、様々な定義がある。私は現在のところ、発達障害は4つのタイプに大別されると考えている。下記の表にその障害名と定義、また幼児期、学童期、青年期におけるそれぞれの臨床的特徴、さらにその頻度、併存症についてまとめたので参照いただきたい。


【発達障害の新たな分類とその経過】

<第一グループ>
【精神遅滞】標準化された知能検査でIQ70未満、および適応障害
幼児期における臨床的特徴(以下略):言葉の遅れ、歩行の遅れなど全般的な遅れの存在
学童期:学習が通常の教育では困難、学習の理解は不良であるが感情発達は健常児と同じ
青年期:特別支援教育を受けない場合には学校での不適応、さらに被害念慮に展開することもある
頻度:1.1%
併存症:心因反応、被害念慮、うつ病など

【境界知能】標準化された知能検査でIQ70以上85未満
幼児期:若干の軽度の遅れのみ
学童期:小学校中学年ごろから学業成績が不良となる、ばらつきも大きい
青年期:それなりに適応する者が多いが、不適応が著しい場合は、不登校などの形をとることも多い
頻度:14%
併存症:軽度発達障害群、高機能広汎性発達障害にむしろ併存症として認められることが多い

<第二グループ>
【知的障害を伴った広汎性発達障害】社会性、コミュニケーション、想像力の3領域の障害
幼児期:言葉の遅れ、視線が合わない、親から平気で離れるなど
学童期:さまざまなこだわり行動の存在、学校の枠の理解が不十分なため特別支援教育以外に教育は困難、親子の愛着が進む
青年期:適応的な者はきちんとした枠組みの中であれば安定、一方激しいパニックを生じる場合もある
頻度:0.6%
併存症:多動性行動障害、感情障害、てんかんなど

【高機能広汎性発達障害】社会性、コミュニケーション、想像力の3領域の障害を持ち、知的にIQ70以上
幼児期:言葉の遅れ、親子の愛着行動の遅れ、集団行動が苦手
学童期:社会的状況の読み取りが苦手、集団行動の著しい困難、友人を作りにくい、ファンタジーへの没頭
青年期:孤立傾向、限定された趣味への没頭、得手不得手の著しい落差
頻度:1.5%
併存症:学習障害、発達性協調運動障害、多動、不登校、感情障害など多彩

<第三グループ>
【注意欠陥多動性障害(ADHD)】多動、衝動性、不注意の特徴及び適応障害
幼児期:多動傾向、若干の言葉の遅れ
学童期:低学年における着席困難、衝動的行動、学習の遅れ、忘れ物など不注意による行動
青年期:不注意、抑うつ、自信の欠如、時に非行
頻度:3~5%
併存症:反抗挑戦性障害、抑うつ、非行など

【学習障害(LD)】知的能力に比し学力が著しく低く通常の学習では成果が上がらない
幼児期:若干の言葉の遅れを呈するものが多い
学童期:学習での苦手さが目立つようになる
青年期:純粋な学習障害の場合は、ハンディを持ちつつ社会的適応は良好な者が多い
頻度:3%
併存症:学習障害自体がさまざまな発達障害に併存して生じることが多い

【発達性協調運動障害】極端な不器用さ
幼児期:不器用、他の障害に併発するものが多い
学童期:小学校高学年には生活の支障となるような不器用は改善
青年期:不器用ではあるがそれなりに何とかなる
頻度:??
併存症:他の軽度発達障害との併発が多い

<第四グループ>
【子ども虐待】子どもに身体的、心理的、性的加害を行う、子どもに必要な世話を行わない
幼児期:愛着の未形成、発育不良、多動傾向
学童期:多動性の行動障害、徐々に解離症状が発現
青年期:解離性障害および非行、うつ病、最終的には複雑性PTSDへ移行
頻度:2%
併存症:特に高機能広汎性発達障害は虐待の高リスク、もっとも多い併存は反応性愛着障害と解離性障害

 
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