米倉涼子さんが見た、最新のおすすめエンタメ情報をお届けします。
もちろんあの伸びやかな歌声は聞いたことがあったけれど、「映画『ボディ・ガード』の人!」というくらいの知識のまま鑑賞した『ホイットニー・ヒューストン〜オールウェイズ・ラヴ・ユー〜』。彼女についての新しい発見がいくつもあるドキュメンタリーでした。
デビューするまでのことも丁寧に描かれていて、音楽一家に生まれ育って家族からニッピーと呼ばれていた子供の頃のエピソードも語られています。母親は有名なソウル・ミュージックの歌手だったということも、この作品で初めて知りました。ホイットニーには生まれ持っての才能もあったと思うし、母親のレッスンも厳しかったんでしょうね。11歳で聖歌隊に入って見事な歌声を聞かせ、プロの歌手を目指したとホイットニーの兄が語っています。
このドキュメンタリーには家族や友人、元恋人、アシスタントやプロデューサーなどたくさんの人たちのインタビューが収められているのですが、そのなかには「10代のときに妹にマリファナをあげたんだ」みたいな赤裸々な証言もあります。スキャンダラスな面ではなくホイットニーの内面を掘り下げるきちんとしたドキュメンタリーを作りたいという監督への信頼があったからこそ、話してくれたのかもしれないですね。母親が教会の牧師と浮気をして両親が離婚したこと、多忙だった母親が家を空けることが多く、何軒かの親戚や友人の家に預けられて育ったホイットニーが従姉から性的虐待を受けていたことなど、衝撃的な秘密も明かされています。
でもやっぱり彼女にとっての最大の悲劇は、ボビー・ブラウンと結婚したことなのかな…。
結婚する前はドラッグを使っていたとしても、自分でコントロールできていたんですよね。でも自分が成功していく過程で彼を立てなきゃいけなかっただろうし、DVもあったんだと思う。そこから逃げるためにドラッグに依存していったのだと思います。
彼女のようなスーパースターでもとんでもない使い方をすると、お金が底を突くってことがあるんですね。心身ともに状態がよくないのに稼ぐためにツアーに出たときの歌声は、本当にひどかった。全盛期の歌声が素晴らしいだけに、壊れていくホイットニーの姿を見ると辛く切ない気持ちになりました。夫と親友が衝突したり、父親とも金銭的に揉めることになったりと、彼女が純粋でいい人だから利用しようとする人が集まってきてしまう。母親と離れることの多い幼少期を過ごしたから自分の娘はそばで育てたいとツアーに帯同させたことも、娘の成長には悪影響を与えてしまいます。
家族や周りの人たちだけではなく、きっと世間の声に傷つけられることも多かったと思うんです。でもハートで歌っていたからこそ、太く短い人生のなかで世界中の人たちに響く歌を届けることができたのだと思います。ホテルの浴槽で息を引き取るという人生のエンディングは、ものすごくやるせない。けれども元恋人が語っている「彼女は暗い顔を一瞬も見せなかった。いつも笑っていた」という印象そのままに、なぜか最後にはホイットニーの笑顔が強く印象に残るドキュメンタリーでした。
『ホイットニー~オールウェイズ・ラヴ・ユー~』
ホイットニー・ヒューストン財団が初公認した、知られざる素顔に鋭く迫る本作。80年代から90年代の全盛期、映画『ボディーガード』の成功、ボビー・ブラウンとの結婚、そして取り沙汰される薬物問題や複雑な家族問題。48歳という若さで不慮の死を遂げた彼女に、何があったのか?丹念なリサーチ、初公開となるホームビデオや貴重なアーカイブ映像、未発表音源とともに、家族、友人、仕事仲間などの証言を紡ぎ合わせ、その知られざる素顔に鋭く迫ったドキュメンタリー。
© 2018 WH Films Ltd
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