1月16日に発表された第160回直木賞は、講談社が発行している真藤順丈著『宝島』が受賞しました。日本中の注目を集める直木賞、発表当日はどんな様子だったのだろうと、『宝島』にさまざまな形で関わる講談社社員に取材。するとそこには「どんなにいい作品でも、賞を取っても、手に取り読んでもらえなければ意味がない!」といわんばかりの、熱血で地道な姿が。華やかな受賞の裏に、もうひとつのドラマがありました!
 

直木賞発表を待たず、受賞帯を持って書店で待機

「直木賞受賞」の帯を持つ講談社・営業総務部の東拓也(左)と、販売担当の第五事業販売部・山田健太郎(右)。「この帯、ムダにならなくてほんとよかったよね(東)」「ほんとですよね。受賞前に1万枚刷るなんて聞いたことないです(山田)」「俺も(東)」。ほのぼのしたやりとりの裏には、並々ならぬ努力が。

第160回直木賞の候補作が発表されたのが、昨年12月。その直後から、受賞した場合の重版部数の決定やスケジュール調整といった事前準備がすでに始まっていたそう。なかでも驚いたのが、「直木賞受賞」と書かれた帯を、受賞が発表される前からすでに準備していたということ。その数なんと1万枚!

「普段はこんなことしないですよ、受賞しなかったら使えないものですから(笑)。ただ今回は“『宝島』が絶対とる”と、作品に関わる全員が思っていたので。地方出張する人にも持っていってもらい、立ち寄った書店さんで渡してもらいました」(山田)

書店への営業を担当している営業部・東は、当日はこの受賞帯を手に、自身が担当する都内書店で待機。スマホで選考会の中継を見ながら、入口の外で受賞の瞬間を今か今かと待っていたそう。

「受賞が決まった瞬間に店頭の帯を替えさせてもらったので、発表の1時間後には受賞帯を巻いた『宝島』が店頭に並んでいましたね。ついでに入口すぐの目立つ場所に特設コーナーも作ってもらいました。その時は書店員さんにも手伝ってもらったんですが『帯ってどう巻くんですか?』って聞かれて。考えてみたら、僕自身も帯を巻くのは初めて。なのでもう、見よう見まねで(笑)。いつもは製本所で巻かれて納品されますから。なかなかできない体験だったと思います」(東)
 

直木賞・芥川賞の講談社ダブル受賞は19年ぶり

1月16日、選考会後に行われた記者会見にて。『宝島』で直木賞を受賞した真藤順丈さん(左)と、『ニムロッド』で芥川賞を受賞した上田岳弘さん(右)。中央は、同じく芥川賞に輝いた『1R1分34秒』の著者、町屋良平さん。写真:YUTAKA/アフロ

今回、講談社の作品がダブル受賞したのは、松浦寿輝・著『花腐し』と、金城一紀・著『GO』が受賞した2000年(第123回)以来、19年ぶりです。

販売部の山田は、部数決定や市場調査などを担当。快挙の瞬間は、販売担当者もかの有名な“待ち会”(※候補の作家が担当編集者らとともに、選考会会場近くの飲食店で受賞の連絡を待つこと)に同席を? と聞くとそうではなく、「部署全員で会社待機」だったとか。

「受賞すれば、注文や問い合わせが殺到するので。ただ直木賞発表の日は、ウチの本が候補に入っていなくても毎回会社で待機しているんです。候補になっている著者さんの別の作品がウチから出ていることもあるし、そこで一躍“直木賞作家”になれば、過去の作品にも注目が集まるので。ともかく直木賞には、それだけの影響力があるということですね」(山田)
 

6000部が22万部へ! 決まった瞬間から電話が鳴り止まず

帯の変遷。左から、2018年10月の「第9回山田風太郎賞」受賞後、同12月の直木賞候補選出時、2019年1月の直木賞受賞後。こうして並べてみると、かなり頻繁に付け替えていることがわかります。これも、作品への愛があってこそ。

実際、当日は受賞の瞬間から注文の電話が鳴りっぱなし、その対応に夜遅くまで忙殺されたそう。

「実は発表前から大重版をかけて、もし受賞した際に品切れにならないよう準備していました。さらにその夜のうちに重版を決め、同じく待機していた業務部を通じて、印刷所や製本所にも連絡。受賞した途端、本を作り、売るためのスイッチが一気に入った感じです。僕自身は今まで数千部の重版ばかり扱っていたのに、いきなり累計10万部ですからね。さすがに手が震えました(笑)。」

発売直後から各所で絶賛されるも、大作ゆえの分厚さと価格、沖縄の基地問題というテーマのシリアスさから、その評価が部数に結びつかなかった『宝島』。それが直木賞受賞からは飛ぶように売れ、現在は22万部を突破!(※取材時) この数字はまだまだ伸びると期待しています。

そしてそんな嬉しい悲鳴の中でも、お二人の話に出るのはこの作品を待っている人、応援してくれた人たちのこと。熱狂に奢らず、大切にするべき存在を忘れない姿勢が印象的でした。

「売れ行きは物語の舞台となった沖縄でも好調で、受賞2日後には那覇市中の書店で完売になったほど。ただ沖縄の場合、本が出来上がってから書店に並ぶまでにどうしても1週間ほどかかってしまう。待ってくれている人を考えると、気が急きます」(山田)

「ここまで部数が伸びたのは、やっぱり直木賞受賞が大きかったと思います。ただ、『宝島』は直木賞をとる前から、“この作品はすごい!”といって応援してくれた書店さんが本当に多かったんですよ。今の忙しさが一段落したら、そういった書店さんにもきちんとお礼に行きたいし、今後何らかの形で恩返しができたらと思っています」(東)

直木賞受賞の瞬間の裏側では、彼ら営業部隊の他にも、ネット書店やデジタル系の配信を担当する部署も待機。ノミネートの時点から即時配信や差し替えに対応できるように手はずを整えていたといいます。華々しい受賞の背景には、受賞を信じて先回りして動いていた、たくさんの裏方たちの物語と報われた想いがありました。
 

次回は、作家・真藤順丈さんの『宝島』執筆を支えた担当編集者たちの長い闘いと作品にかけた想いに迫ります。

 

『宝島』
真藤 順丈  著 講談社 ¥1850(税別)


◆祝!第9回山田風太郎賞&160回直木賞受賞!◆
英雄を失った島に、新たな魂が立ち上がる。固い絆で結ばれた三人の幼馴染み、グスク、レイ、ヤマコ。生きるとは走ること、抗うこと、そして想い続けることだった。少年少女は警官になり、教師になり、テロリストになり―同じ夢に向かった。超弩級の才能が放つ、青春と革命の一大叙事詩!!

文/取材・文/山崎恵 
撮影・構成/川端里恵(編集部)