華麗なる走りの秘密「主食は肉!」
ちなみに、この「いだてん 助走〜2019年大河ドラマ制作記〜」では、勘九郎さん、生田斗真さん(三島弥彦役)、永山絢斗さん(野口源三郎役)が撮影に入る前から身体を鍛えているところも紹介されていました。
生田さんのカットには、「週四回ジム!」「主食は肉!」「ダンベルは友達!」とテロップが入っていて……。だからこその、第五話でのあの華麗なる走りだったのですね。
さて、六話のことをもうすこし。四三は、播磨屋さん(ピエール瀧)に、底を三枚がさねにした走りやすそうな足袋をつくってもらいます。四三がマラソン大会で走りづらかったと言ったとき怒ったかと思ったら、黙って改善していた。職人の挟持を感じる名場面でした。
嘉納は、オリンピックの予算に困って(可児〈古舘寛治〉がトロフィーを作ってしまったのでさらに予算がない)いながら、辛亥革命で国に帰ろうとする留学生に、数億円もの借金をしてまで、学費を肩代わりするというエピソードも胸熱でした。羽田の運動場をつくるとき、留学生が働いていたことが、ここにつながっているんですね。
このように、いいエピソード満載の六話。最初に、「今日からは世界をめざすいだてんのお話」とナレーション(森山未來)が言うから、もうこれで時系列が行ったり来たりすることなく、明治の話がじっくり進むのかと思いきや、またまた第一話の冒頭で出てきた、昭和34年1959年、オリンピックのための工事で渋滞しているという場面に戻るんです。ヤラれました。
今度は田畑政治(阿部サダヲ)が車に乗って(松重豊さん、主演舞台「ヘンリー五世」がはじまった松坂桃李さんも同乗しています)、進まないことにイライラしていると、スッスッハッハッと走る男が通り過ぎていきます。つまり、このとき、志ん生(ビートたけし)も、田畑も、同じ走る男を見かけているという、運命的な構成。宮藤さん、どれだけ、運命的なすれ違いを仕掛けたいんですか。私は好きです、こういうの。
で、また、昭和と明治が行ったり来たり。この手の構成に慣れていない人は、脳トレだと思って追いかけましょうよ。
はたして、第七話からは、世界をめざすいだてんのお話に集中するんでしょうか。
【データ】
大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』
NHK 総合 日曜よる8時〜
(再放送 NHK 総合 土曜ひる1時5分〜)
脚本:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
演出:井上 剛、西村武五郎、一木正恵、大根仁
制作統括:訓覇 圭、清水拓哉
出演:中村勘九郎、阿部サダヲ、綾瀬はるか、生田斗真、森山未來、役所広司 ほか
第七回 「おかしな二人」 演出:一木正恵
ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。
文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門1&2』(アルテスパブリッシング)など。
ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。
メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。
ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。
ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。
ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。
ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。
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映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。