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写真:INSTARimages/アフロ


ドリュー・バリモア「衝撃のスッピン写真」の理由


毎週のように日本で封切られるハリウッド映画の出演者クレジットを見て気づくことはないだろうか? そう、男優の方は相変わらずのメンツなのに対して、女優は随分と様変わりしているのだ。簡単に言えば、80年代〜90年代生まれが主演を務めることが増えた。
でもこうした状況を見て、「ハリウッドは若い女ばかりをチヤホヤする。だからダメなんだ!」と思うのは早計すぎるかも。ニコール・キッドマンやナオミ・ワッツ、ジェニファー・アニストンといった60年代生まれの女優たちは新作にバリバリ出まくっているのだから。
露出が地味になったのは、その狭間の70年代生まれの女優、しかもゼロ年代にロマンティック・コメディを中心に活躍していたメンツに集中している。ということは、ジャンルとしてのロマコメが斜陽になったことで、ハリウッドは彼女たちを必要としなくなってしまったのだろうか?

 

「わたしって惨めに見えるでしょう?」
昨年5月、『チャーリーズ・エンジェル』や『50回目のファースト・キス』などで知られるドリュー・バリモア(1975年生まれ)が自らのインスタグラムに投稿したセルフィーは一見、こうした憶測を裏付けるようなものだった。ボロボロの肌、枝毛だらけの髪、そして正気のない表情。すっぴんとはいえ、同年代の女優どころか一般人を含めても下位クラスなのでは?とツッコミたくなる落ち込みっぷりだったのだ。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Drew Barrymoreさん(@drewbarrymore)がシェアした投稿 -

「わたしって惨めに見えるでしょう?」2018年5月24日のドリュー・バリモアのインスタグラムより。

しかしそこからドリューの逆襲が始まった。彼女はスキンケアやメイクを工夫することで徐々に美貌を取り戻していき、9月には完全復活。そしてドリューは宣言した。
「Flower Beauty、スキンケア・プロダクト始めます!」
一連の投稿はドリューが2012年に設立していたコスメ・ラインのパブリシティだったのだ。この自ら体(というか、顔)を張った宣伝戦が効を奏し、Flower Beautyはアメリカ本国で売り上げを急拡大、英国やメキシコにまで進出している。近年は、netflixのゾンビコメディ『サンタクラリータ・ダイエット』くらいしか仕事がなかったドリューだけど、オファーがなかったのではなく、Flower Beautyの経営のためにセーブせざるを得なかったのだろう。

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ドリュー・バリモアが立ち上げたコスメ・ライン「Flower Beauty」のサイト

ビジネスに打ち込むために女優仕事をセーブしているのはドリューだけではない。グウィネス・パルトロウ(1972年生)が近年、『アイアンマン』の主人公トニー・スタークの恋人ペッパーしか演じていないのは、2008年に自ら設立した通販サイト「Goop」のCEOとしての業務があまりにも忙しいからだ。
地球への優しさを基準に厳選された高品質な商品を、読み応えある記事とともに掲載したこのサイトは、意識高い系の女性たちの強固な支持をゲット。先日Netflixと番組製作の契約も結んだそうなので、日本でもいずれCEOグウィネスの仕事ぶりをウォッチ出来るようになるだろう。
同じく事実上、実業家に転身済みといえるのが、『あの頃ペニー・レインと』や『10日間で男を上手にフル方法』で知られるケイト・ハドソン(1979年生)。彼女が2013年に立ち上げたヨガを中心とする女性向けスポーツウェア「Fabletics」は、全米に22のリアル店舗を構え、年商は2億3500万ドルに達するという。


このふたりを追いかけているのが、リース・ウィザースプーン(1976年生)だ。彼女が2015年に設立したアパレル・ブランド「Draper James」は、『キューティ・ブロンド』や『メラニーは行く!』といった往年の主演作で彼女が着ていたファッションを彷彿とさせるカラフルでキュートなもの。地球に優しい「Goop」に対して、殆どの商品を150ドル以下に抑えた財布に優しいラインナップが特徴だ。
もちろん、人気女優が立ち上げたブランドはこれまでにもあったけど、ほとんどは知名度を武器にしたボンヤリとしたビジネスにすぎなかった。でも今はSNS時代。自分のファンがどんなライフスタイルを送っているかは手に取るようにわかる。ドリューら四人のファンはいずれも四十代中心で、安いだけでは納得しない世代だ。そのため彼女たちは品質に拘った商品を製造・販売した。するとファン以外の顧客も獲得して、かつてないサクセスを収めたというわけだ。

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リース・ウィザースプーンが立ち上げたアパレル・ブランド「Draper James」

こうしたビジネスは非能率に思えるかもしれない。今のアメリカには自分では汗水流さずタイアップだけで何百万ドルもの報酬を稼ぐインフルエンサーがゴロゴロいるのだから。でもタイアップは取り扱う商品に責任が持てないというリスクがある。
事実、バハマの小島で2017年4月に開催を告知されながら、詐欺まがいの運営によって開催当日に中止となった音楽フェス、Fyre Festival(ファイア・フェスティバル)の宣伝ビデオに水着姿で出演したケンダル・ジェンナーやベラ・ハディット、エミリー・ラタコウスキーらインフルエンサーたちは現在、激しい批判に晒されている。
やはり自分が納得できる商品をゼロから企画して宣伝戦略を立てて、販売する方が遥かにやりがいがあるし、楽しいはずなのだ。そんなビジネス・ウーマンとしての喜びを知ってしまった以上、70年代生まれの女優たちがハリウッドを留守がちにするのもやむをえないことなのかもしれない。
 

文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部)

 

著者一覧
 
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映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

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文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

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ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。

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メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

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ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

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ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

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ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。

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ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。