アカデミー主演男優賞に輝くのは誰? 華麗な“肉体改造”をした2名に注目!_img0
『バイス』で20キロ増量し、ディック・チェイニー副大統領に挑んだクリスチャン・ベール。©️2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

アカデミー賞授賞式を控えて、今回は大幅な“肉体改造”をして主演男優賞にノミネートされた俳優ふたりを紹介したいと思います。昨年、ゲイリー・オールドマン(『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』)は日本人メイクアップアーティストの辻一弘さんが手がけた毛穴のひとつひとつまでリアルな特殊メイクによってチャーチルになりきり、主演男優賞を受賞しました。今年、その変貌ぶりが話題になっているのは『バイス』でディック・チェイニー副大統領を演じたクリスチャン・ベール。ジョージ・W・ブッシュ大統領のそばで“影の大統領”として同時多発テロ事件の危機対応を任され、イラク戦争へと導いていった悪名高き副大統領です。クリスチャン・ベールは約20キロも体重を増やし、年代によって鼻や頰、あごのシリコンやピースを重ねる特殊メイクの力も借りて、写真を並べると二度見しても見分けがつかないくらいチェイニー大統領そっくりに!

アカデミー主演男優賞に輝くのは誰? 華麗な“肉体改造”をした2名に注目!_img1
『バイス』より。©️2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

ベールはこれまでも『マシニスト』では一年間も不眠症の男を演じるために骨と皮膚だけのほぼ鶏ガラ状態の体に、その後も『ザ・ファイター』『アメリカン・ハッスル』では大幅に増量、もちろん髪の毛を剃ってハゲ頭になることなど余裕で無問題と、役者魂という言葉では足りないような壮絶な役作りをしてきました。チェイニーが心臓病を患っているエピソードが描かれているのですが、どちからというと太ったりを痩せたりを繰り返しているベール本人の心臓への負担が心配になるレベル。とはいえ、彼にとっては実在の人物の本質的な部分をつかむために、必要不可欠なアプローチなのでしょう。アカデミー賞主演男優賞では『ボヘミアン・ラプソディ』のラミ・マレックとともに有力候補になっています。

 

監督はリーマン・ショックの裏側をエネルギッシュかつ喜劇的なアプローチで描いた傑作『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のアダム・マッケイ。テンポよくとんでもない過ちの数々を見せられる作風は今回も健在で、こんな男が世界を動かしていたなんてどんな悪趣味なギャグなの!? …と笑いながらも背筋が凍るようなコメディです。

もう1本の『グリーンブック』も60年代の実話がベース。『ゴッドファーザー』などにも出演しているイタリア系の元用心棒と、エリート教育を受けた孤高の黒人天才ピアニストをめぐるトゥルーストーリーが映画になりました。教養なしの愛嬌あり、腕っ節の強いイタリア系のトニーに扮したのはデンマーク系の名優、ヴィゴ・モーテンセン。ピザやらフライドチキンやらを豪快に平らげる様子になんだか頼もしい生命力があふれていて、ガサツなのにどうにも憎めない! ガハハと笑ったときの歯茎までチャーミングだなんて、かわいいがすぎる…。ヴィゴは14キロ体重を増やして、思わず抱きつきたくなるようなお腹を見せてくれます。

アカデミー主演男優賞に輝くのは誰? 華麗な“肉体改造”をした2名に注目!_img2
こちらは14キロ増量!『グリーンブック』のヴィゴ・モーテンセン。©️ 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

肌の色や性別、善と悪といった単純な二元論では語れない差別の問題を、押し付けがましさのない脚本と演出で見せてくれたのは、『愛しのローズマリー』など偏見を題材にしたコメディを撮ってきたピーター・ファレリーです。笑いのなかに涙があり、涙のなかに笑いがあって、ずっと彼らと一緒に旅を続けたくなる。旅の途中には理不尽な現実と向き合う辛い場面もあるけれど、エンディングのファミリー感あふれる雰囲気と手紙をめぐる粋なやりとり(ぜひスクリーンで!)を思い出すだけでも、幸福感で胸がいっぱいになるほど! 主演賞・助演賞というよりも、トニー役のヴィゴと、威厳と脆さの両方をにじませてピアニストを演じたマハーシャラ・アリにはバディ賞をあげたくなります。

アカデミー主演男優賞に輝くのは誰? 華麗な“肉体改造”をした2名に注目!_img3
『グリーンブック』より。©️ 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

主要賞の私の予想は、作品賞:『グリーンブック』(『ROMA/ローマ』と悩みつつ…)、監督賞:アルフォンソ・キュアロン『ROMA/ローマ』(外国語映画賞も!)、主演男優賞:ラミ・マレック『ボヘミアン・ラプソディ』、主演女優賞:グレン・クローズ『天才作家の妻 40年目の真実』、助演男優賞:マハーシャラ・アリ『グリーンブック』、助演女優賞:レジーナ・キング『ビールストリートの恋人たち』、長編アニメーション賞は『スパイダーマン:スパイダーバース』。外れたら笑ってやってください…。授賞式には「クイーン」が登場することも正式に発表され、こちらのパフォーマンスにも期待が高まります! 

<作品紹介>
『バイス』
 

監督・脚本・製作:アダム・マッケイ、スティーヴ・カレル、サム・ロックウェル、タイラー・ペリー、アリソン・ピル、リリー・レーブ、リサゲイ・ハミルトン、ジェシー・プレモンス
4月5日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

©️ 2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.


『グリーンブック』
 

監督:ピーター・ファレリー
出演:ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ
3月1日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国公開

©️ 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

 

映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部)

 

著者一覧
 
アイコン画像

映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

アイコン画像

文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

アイコン画像

ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。

アイコン画像

メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

アイコン画像

ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

アイコン画像

ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

アイコン画像

ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。

アイコン画像

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。