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【魔除け文様】花街の「お化け」

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「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり」で始まるのは紀貫之の土佐日記ですが、2019年の今は、日記はもちろん、多くのことがすべての性に開かれつつあります。様々なことにボーダーレスに挑戦できる時代に感謝しつつ、先日私も「男もすなる花街遊びといふもの」を初めて体験してきました。

といっても、一般には開かれていない花街の世界。今回は「節分お化け」という年に一度のお祭りごとに乗じて、普段夫たちがお世話になっている宮川町のお店に妻たちだけで遊びに行ってきました。「節分お化け」とは節分の前後2、3日だけ、芸妓さんが仮装をして普段とは全く違う芸を披露してくださるイベント。芸妓さんが男装をしたり、遊びに長けた常連さんが女装をしたりとまるでハロウィンのようです。

今回は30人ほどの大寄せのお席に女子3人で参加。お食事をいただき、お席に付いた舞妓さんと少しお話していますと、お店のお母さんの「いらっしゃいました」の一言で一気に場は静かに。そして……

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え、フレディ・マーキュリーの登場!!

出雲阿国がフレディになってしまうという設定でお客さんも一緒にRock you!! 単純な時事ネタ披露ではなくストーリー仕立てになっており、最後にはフレディが宮川音頭(京をどりの最後に演じられる総踊り)を披露してキッチリ本芸で締めるという圧巻の構成でした。

その後も入れ替わり立ち替わり、芸妓さんたちがお席に来てはこの日のためだけの芸を披露してくださいます。U.S.Aにヤンシー&マリコンヌ、ハズキルーペ……次々と繰り出される時事ネタで大いに笑い、かしまし娘や美空ひばりなどの懐メロには皆で手拍子、都々逸や舞には感嘆し……まさに三位一体。どれも構成が素晴らしく、あっという間の3時間でした。

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今回私たちは5組の芸を拝見しましたが、芸妓さんたちは一晩で二十近くのお席を回るそう。あの完璧なU.S.Aをあと10回以上も踊るのかと思うと尊敬の念しかございません。

元々「お化け」とは節分の夜に「普段とは違う」年齢や性に化けることで鬼をやり過ごすという厄除けの風習。芸妓さんのように化けることはできませんが、厄を除ける文様を身につけて少しでも鬼を払いたいものです。

我が家でもっとも鬼が逃げていきそうな刺繍は、姉の婚礼の際に父が作った打掛。背中いっぱいに大きく施された「麒麟」には「魔除け」の意味が込められています。

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金糸、銀糸、漆の糸などで繍われた重厚な麒麟。実際羽織るととっても重いです。

他にも三角形が並んだ「うろこ文様」や竹籠の編み目を表した「籠目文様」も魔除け文様。幾何学柄は普段使いしやすいのでおすすめです。

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籠目文様の入った手ぬぐい。刺繍の時に使っています。

できれば波風立てず無事に過ごしたいと願っていますが、今回は「節分お化け」の強烈な笑いと芸の風ですっかり厄が飛んで行ったよう。今年も無事に良い春を迎えられたことに感謝です。

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PROFILE 長艸 歩(ながくさ あゆむ)

1987年京都市生まれ。芸術大学にて絵画を学び、卒業後は京都の老舗日本茶メーカーで販売や広報として勤務。結婚、出産を機に夫の家業である「長艸繡巧房」にて伝統的な京都の刺繡「京繡(きょうぬい)」を学びはじめる。 現在は3歳と1歳の女の子を育てながら刺繡の技術の習得と、いままで触れる機会のなかったディープな京都文化の吸収に励んでいます。 Instagram(@sica.seka)でも刺繡や文様のことを発信しています。

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<5月9日 刊行予定!>
『繡えども繡えども』
(仮)

著者 長艸敏明
A24判 192ページ/ 講談社

長艸敏明氏は歩さんの義父。刺繡作家、京繡伝統工芸士である氏の作品集が出版されます。着物や帯のほか、季節ごとのしつらえや婚礼衣装などの祝い着、祭事の修復や復元まで京繡の第一人者である著者の“刺繡の力”を堪能できる100点を掲載。

構成/山本忍(講談社)