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【貝桶文様】京都の幼児言葉

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うちには3歳と1歳の娘がおります。仲良くしたり喧嘩したり毎日本当に目まぐるしく、親の体力・精神力も日々試されているようです。長女はプリンセスが大好きですが、お着物の方を見ても「プリンセスや!」と喜びます。おそらく私と母が七五三の前に「お着物きたらお姫様になれるよ~」といっぱい吹き込んだからでしょう。

娘たちの和製プリンセス姿がこちら。

 

長女と次女で着物とお被布の色が対になっています。長女は貝桶と貝合わせ、次女は檜扇と蝶、四季花の図案で女の子らしく上品な印象に。次女の時は私も母と一緒に繡わせてもらいました。

(左)貝合わせは平安貴族の遊びで、貝の内側に対になる絵や和歌を書いて対の貝を当てるもの。貝は別の貝とは決して合わないことから夫婦の和合の象徴とされてきました(中)貝桶は貝合わせの貝を入れる桶。嫁入り道具の一つでした(右)檜扇は末が広がっている形状から吉祥文様として愛好されてきました。

三つ参りのためだけに着物を誂えるのは大変贅沢なようですが、0歳のうちから作りはじめ、肩上げや裾上げでサイズを直しながら5~6歳くらいまでずっと着せます。毎年お正月に着物で家族写真を撮るのですが、ぶかぶかだった子供服がいつの間にかツンツルテンになったのをみて成長を感じるように、毎年少しずつ丈を直しながら着せることで子の成長を実感できるように思います。

可愛い着物を着せてもらったらお仏壇にもご挨拶。「まんまんちゃんあん!」と手を合わせます。「まんまんちゃん」とは京都や関西の幼児語で仏様やお地蔵様のこと。「あん」は仏様やお仏壇に手を合わせる動作を表現しています。京都では各ご町内にお地蔵さんがあり、子どもたちは通りがかるたびに「まんまんちゃんあん」と手を合わせます。

「まんまんちゃんあん」のように京都の幼児言葉には「ん」がつく言葉が多い気がします。あっぽん(帽子)、おっちんとん(座ること)、かんちこちん(簡単なこと)など。多少の地域差はあると思いますが、例えば「あっぽん脱いでおっちんとんしてあんしいや」(帽子を脱いで座って仏様に手を合わせなさいよ)というように使います。「ん」が多いですよね…(笑)。私の推測ですが「ん」には「アンパンマン」にも通ずる親しみやすさがあり、小さい子でも発音しやすいからではないか?と思っております。皆様の地域にも独特の幼児言葉はありますか?

デジタルネイティブな我が子を見て、自分の子供時代とは随分違うなあ!と驚かされることも多いですが、お地蔵さんを見つけるたびに「まんまんちゃんあん!」とご挨拶する姿は私が小さい頃となんにも変わらないなぁと安心しています。

PROFILE 長艸 歩(ながくさ あゆむ)

1987年京都市生まれ。芸術大学にて絵画を学び、卒業後は京都の老舗日本茶メーカーで販売や広報として勤務。結婚、出産を機に夫の家業である「長艸繡巧房」にて伝統的な京都の刺繡「京繡(きょうぬい)」を学びはじめる。 現在は3歳と1歳の女の子を育てながら刺繡の技術の習得と、いままで触れる機会のなかったディープな京都文化の吸収に励んでいます。 Instagram(@sica.seka)でも刺繡や文様のことを発信しています。

 

<5月9日 刊行予定!>
『繡えども繡えども』
(仮)

著者 長艸敏明
A24判 192ページ/ 講談社

長艸敏明氏は歩さんの義父。刺繡作家、京繡伝統工芸士である氏の作品集が出版されます。着物や帯のほか、季節ごとのしつらえや婚礼衣装などの祝い着、祭事の修復や復元まで京繡の第一人者である著者の“刺繡の力”を堪能できる100点を掲載。

構成/山本忍(講談社)