90歳まで生きることが当たり前の今、40〜50代で人生のモードチェンジをすることが必要——。そう耳にすることも多い今、実際にその年代に差し掛かった人はどう行動すればよいのでしょうか。人材紹介会社・Warisのキャリアカウンセラー・島谷美奈子さんとともにに、セカンドステージの模索法を考えます。

40代ともなると、「好き」だけでは仕事や生き方を決められないもの。そこで鍵となってくるのが「貢献欲」です。

「好きを仕事にする」ということも素晴らしいですが、これまでの経験から培った「社会を良くしたい」「組織を改善したい」「人材を育成したい」「地域を支援したい」などという思い(=貢献欲)は、次のステージへと進む大きな原動力になります。実際に、これまでの「キャリア」に「貢献欲」を掛け算して、自分だけのセカンドステージを見つけた人はたくさんいます。
 

自分が何に貢献したいと思っているのか、それに気づくことは、次のキャリア・生き方を模索する大きな糸口になるのです。その見つけ方を伺うとともに、どうすればその貢献欲をカタチにしていけるかについても探っていきたいと思います。

 

島谷美奈子 Warisキャリアカウンセラー。Warisワークアゲイン事業プロデューサー。国家資格キャリアコンサルタント。産業カウンセラー。健康経営アドバイザー。人材ビジネス業界と公的機関で15年以上の経験を持ち、キャリアカウンセリング実績は延べ 5000名以上。Warisキャリアカウンセラーとして、転職・フリーランス転向支援、キャリアママインターン事前研修講師を務めている。また横浜市、相模原市、横須賀市、新潟市等にて再就職セミナーの実績多数あり。
 

年齢や環境の変化をモードチェンジのきっかけに

 
 40代ともなると、「これからはやりたいことだけをやって生きる、というのは何か違う。それよりこの歳になったら、自分の経験を生かして何か貢献できることをしたい」と考える人は多いようです。

 ですがまず「セカンドステージに向けてのモードチェンジを」と行動を起こすきっかけはどうやって掴めばいいのでしょう? 日々の仕事に忙殺されていると、「動かなければ」という気持ちすら、なかなか起きそうにありません。上手にモードチェンジをおこなった人は、何をきっかけに行動を起こそうと思ったのでしょう?

「やはり大きなきっかけになるのは年齢ですね。40歳までに、とか、社会人20年目までに、といった節目で次のステージを模索し始める方は非常に多いです。また子供が小学生に入ったから、親が介護施設に入ったから、あるいは会社の昇進試験に落ちた、同期だけが出世して自分の出世は絶望的になったとか、そういった環境の変化をきっかけに『違う生き方を』と模索され始める方も少なくありません。また、大手企業で管理職経験が豊富にある人材が、転職活動で同じようなポジションばかりオファーが来ることに悩み、現場の仕事に戻るためにベンチャー企業への転職を選ぶというケースもあります。ですから皆さんも、年齢や環境の変化など、何かの節目をセカンドステージを考えるタイミングにされると良いかもいしれません」

 ファッションでも、あるとき突然「前は似合っていたものが似合わなくなった!」と変わらざるを得なくなるときがくるように、人生も「このままではいけない」と強く感じるタイミングはくるもの。そこで目をそらさずに、思い切って行動をすることが大切なようです。
 

何でもいいので新しい一歩を踏み出すことが大切


 しかし、せっかく「このままではいけない」という気づきを得られたとしても、そこからどう動けばいいのでしょう? 動き方が分からずグズグズしているうちに時間だけがどんどん経っていった、という人も少なくないのではないでしょうか。


「アラフォーでWarisに登録しているある女性は、もともと大手メーカーで働いていたのですが、家庭との両立が厳しくなって会社を辞め、フリーランスになるんですね。でもよく考えたら『フリーランスでフルタイムで働けるのなら、正社員という選択肢もあるのでは?』と気づいたのです。そこで周囲に相談して、某会社のインターンに応募して見事再就職をされます。


このようにセカンドステージへの転身に成功される方というのは、何かしたいと思ったらすぐに周りに話す傾向があります。でもマジメな方ほど、誰にも話さず、転機のほうから訪れてくれるのを待つ傾向にあります。自分なんかが何かしたいと話すなんておこがましい、と思ってしまうようです。そんなふうに謙虚になる必要は全くないのに……」


 たとえば既に行動を起こしている先輩に思い切って相談したり、SNSへの投稿やブログなどを書いて発信したり……。ワークショップに参加するのもお勧めだと、島谷さんは言います。

「Warisもフリーランス女性向け交流会などを開催していますが、毎回参加された方は、そこで様々な気づきを得て帰っていかれます。その気づきを参加者の前で発表したり、まとめシートを作ったりとアウトプットをするのも、気づきがより明確になるのでお勧めですね。ただし気づきを得たからといって、実際に新しい活動を起こすところまで、急激に自分を引き上げる必要はありません。そのように違う一歩を踏み出すことで、新しい情報が入ってきて、そこから『私が貢献したいと思っているのはココかも』『私がこだわりたいのはココかも』というのが見えてくる、それこそが大事なのです。とにかく大切なのは、今までと違う一歩を踏み出すこと。馴染みの人や同じ環境にいる人たちというのはあなたのことを引き止めますから、実はブレーキになってしまいがちなのです」

 ここで島谷さんは、ワークショップに参加したことで自分の「貢献欲」に気づき、セカンドステージへの転身に成功した人の実例を挙げてくれました。

「その方は、PR等の経験を経て、辞めて育児に専念、という経歴の持ち主でした。育児が落ち着いたとき、セカンドステージとして仕事復帰を目指されたのですが、なかなか仕事が見つからずにいたのですね。そこでWarisの有料キャリアカウンセリングや、再就職を目指す方向けのイベントを受けにいらっしゃいました。それらの過程で、学生時代にやっていたホテルのアルバイトが非常に楽しかったことを思い出されます。そこから、自分は人にサービスを提供して幸せになってもらうことが好きなんだ、ということに気づき、ホテルへの転職を果たされたのです。

他にも、大学院で公共政策学を学んでいた女性は、20年の会社員の経験に、大学院で学んだ知識を統合されて、NPO法人職員として転職を果たされました。過去の学生時代や、40代からの学び直しを通してやりたいことに気づくこともあります。学生時代というのはお金よりやりたいことへの思いが強い時期だけに、振り返ると自分の貢献欲が具体的に見えてくることも多いものです」

<まとめ>
自分の「貢献欲」に気づくためにやるべきこと5


①漠然とでもいいので自分がやりたいと思っていることを人に話す
 (ただし同じ環境にいる人ではなく違う環境にいる人に話す)

②興味を持っていることをブログやSNSに書いて発信し続ける

③ワークショップ、交流会などのイベントに参加する
(参加後、まとめシートを作ったり発表したりすると尚良い)

④国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)に掲げられた17の目標とその下にある169のターゲット(課題)を見てみる(外務省HPもオススメ)

⑤学生時代に興味を持っていたことを思い出す


どんな人もスキルは身についている!

 

 そのように新しい一歩を踏み出し、自分の「貢献欲」が浮き彫りになってきたところでおこなうべきなのが、「キャリア×貢献欲」の掛け算です。その算式から具体的に自分のやりたいことが見えてきた場合、どのようなスキルを磨くことが実現に近づきやすいのでしょう?

「やはり一番はコミュニケーション能力と柔軟性です。違う世代とも上手に関われる、また好奇心が旺盛であるといった能力は、どの職場にも持っていけるポータブルスキルですから、転職市場でもニーズが高いのです。またフリーランスの仕事を選ばれる場合、自分を売り込まないといけませんから、交渉力は強みになります。ぜひ今のうちに、社内プロジェクトに率先して参加したり、他の部署の人に何かを交渉してみたり、といったことをしてスキルを磨かれてください。

また係数管理力も多くの企業が求めるところです。これは簡単に言うとお金の動きをきちんと管理できる能力で、仕事のブランクが長い主婦の方でも、学校や地域活動の会計担当であったり、家計を管理していた、という方などは意外とこの力が備わっているものです。主婦の方というのは『自分にはキャリアがない』と思いがちですが、他にも、同時にたくさんのことをこなせる段取り力、親戚やママ友などと様々な価値観の人と上手く関われる力などを身につけています。ですから職場の中での調整役や、多様な立場の方への対応役として、その能力を求める企業は意外と多いんですよ」

 実際、13年という長期ブランクを経て、業務改善を請け負う仕事を自宅で始めた主婦の方は、主婦時代のグループライン経験を生かして、グループラインでのチャット会議でも、メンバーの細かい性格を踏まえて上手く会議を回すことができているそう。またPTA活動もしていたことからボランティアで何かをやる心理も見抜いていて、お金にはならないけれど社会参加はしたい、という人たちへの配慮もできている、と言います。

「ある程度の年齢の方なら、どんな環境にいようともそれなりの経験、学びは積んでいるはず。だからこそ、あとは思い切って動くことが大事なのです。40代、50代の学び直しは増えていますが、実際にセカンドステージを見据えて行動を起こせる人というのは、知識が豊富な人よりも柔軟性や積極性、あるいは好奇心旺盛といったポータブルスキルを身につけている人なんです。反対に『失敗したくない』と慎重しすぎる方や、プライドが高すぎる方は、なかなか動けていません。でも、ずっと在宅業務で外に出るのが怖かったという方でも、50歳という年齢が後押しをしてくれて新しい一歩を踏み出せた、という方もいます。人生のモードチェンジをはかりたいと思われているなら、ぜひ今までと違う一歩を何でもかまいませんので勇気を持って踏み出されてみてください!」

 いかがでしたか? ぜひ自分なりの節目を見つけて、自分なりの新しい一歩を踏み出されてみてください。それこそがこれからの長い人生を、精神的にも経済的にも豊かにしてくれるかもしれませんから!

取材・文/山本奈緒子 構成/川良咲子

 

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