『家売るオンナの逆襲』(日本テレビ系にて毎週水曜よる10時より放送)で伝説の不動産屋営業ウーマンを演じる北川景子。


「バリキャリvsワーママ」対決回は「神回」認定


新作ドラマの中からヒットが生まれにくくなっているなか、シリーズ化されたドラマの安定感がここのところ目立ちます。ロングラン作品ほどそれが増している傾向すらあります。今期は『家売るオンナ』(日本テレビ系)が2年半ぶりに復活し、2作目『家売るオンナの逆襲』として健闘しているところ。果たして、息の長い作品に向かって「GO!」できるのでしょうか?

 

『家売るオンナ』の主演は北川景子。家を売って売って売りまくる、伝説の不動産屋営業ウーマンのサンチーこと三軒家万智を演じています。「私に売れない家はない」「GO!」がお決まりのセリフです。脚本はヒットメーカー大石静が手掛け、登場人物ひとりひとりのキャラクター設定は単純明快、一話完結のストーリー展開は痛快。毎度、問題が勃発してもシリアス度ゼロの軽いタッチのお仕事ドラマが描かれています。

1作目が放送された2016年8月クールでは全10話平均視聴率11.6%。2作目の『家売るオンナの逆襲』は現在8話までの平均視聴率が11.5%と、前回並み。上位クラスのドラマにも滑り込んでいます。数字の上では今のところまずまず順調と言える結果でしょう。

一方、2作目ということで、1作目との比較対象がある分、視聴者から厳しく評価もされがちです。それを想定してか、北川景子の演技の潔さは増しているようにみえます。例えば、第7話で見せたボウリングシーン。女優根性をみせる北川景子の姿がSNS上で「恥じらいのない演技」と評されたほど。2作目に入っても気を抜かずにキャラづくりを追求しています。

三軒家万智の痛快なキャラ設定にも注目。


現代女性のモヤモヤを代弁できるかがカギ


また今作から登場した松田翔太が演じる新キャラクター、留守堂謙治はサイドストーリーの要に。レギュラーメンバーの千葉雄大が演じる足立聡とのBL(ボーイズラブ)を展開し、新しい話題を作り出していることにも成功しています。

そして、攻めているのが各回におけるテーマの切り口。1作目は「家を売りまくる」ことに注力していましたが、2作目で取り上げるテーマはLGBT、ワーママ、W不倫、働き方改革など社会派ぞろい。世間の話題を取り上げ、炎上を恐れず突っ込んでいます。意見が対立しがちなテーマを説教臭くなく着地させるところは、さすがの大石静脚本といったところ。なかでも、第7話の「バリキャリvsワーママ」の裁きぶりはお見事。育児を理由に価値観を押し付けるワーママ(佐津川愛美)に対してサンチーが「あなたは子どもをタテにすれば周りがすべてひれ伏すと思っている」と言い放って黙らせるも、最終的には育児と仕事を両立できる家を売って、スッキリ感のある締め方でした。共感を得たのか、ツイッター上で「神回」の声が多く挙がっていました。

こうして健闘ぶりを並べてみると、お決まりの展開で守りを固め、テーマでは攻め、そのバランスがちょうどいいドラマであることが改めてわかります。次に狙うはロングランのシリーズ化でしょう。実は今、現代女性のモヤモヤを代弁する最強オンナがヒロインのドラマシリーズには空きがあります。チャンスです。

現在放送中の17シーズン目の『相棒』(テレビ朝日系)や、4月から1年にわたって放送する予定の『科捜研の女』(テレビ朝日系)のヒーロー、ヒロイン像とは違いがあります。シリーズ化ドラマが得意なテレビ朝日には『ドクターX』もありますが、現在はお休み中。『家売るオンナ』を制作する日本テレビも、安定のシリーズドラマも切り札として持っておきたいはずです。もちろん、見る側にとっても、シリーズドラマのバリエーションが増えることに異論はありません。新作よりも気楽に視聴できる定番ドラマと、現代女性に寄り添うテーマにはニーズがあります。

『家売るオンナ』が今後ヒロイン像をどう見せていくかがシリーズ化のカギといえるでしょう。

<ドラマ紹介>
『家売るオンナの逆襲』

 

日本テレビ系にて毎週水曜よる10時より放送
脚本:大石 静
出演:北川景子、松田翔太、工藤阿須加、イモトアヤコ、鈴木裕樹、本多 力、草川拓弥、長井 短、千葉雄大、臼田あさ美、梶原 善、仲村トオル

 

メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部)

 

著者一覧
 

映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。

メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。