四三(中村勘九郎)を「フォーティースリー」と呼び、テーブルマナーを教える安仁子(シャーロット・ケイト・フォックス)。
第七回 「おかしな二人」 演出:正木一恵
あらすじ  
ストックホルムオリンピックの日本代表候補・韋駄天こと金栗四三(中村勘九郎)は行きたいけれど渡航費用がなく、痛快男子・三島弥彦(生田斗真)は金ならあるが行かないと言い、嘉納治五郎(役所広司)を悩ませていた。
結局、なんとかふたりとも行くことになり、準備がはじまる。だが四三はどうにもお金がなく、ついにはマラソン大会のトロフィーを売ろうと思いつめたとき、熊本から兄・実次(中村獅童)がお金をもって上京して来た。

古舘寛治の小市民キャラがツボ
 

第七話は、オリンピックに向けて準備する治五郎や四三、弥彦たちと、それをとりまく人たちの個々のキャラクター性を掘り下げて、おもしろおかしく、ときどき、ちょっとほろっとする部分も交えて描かれていました。

いいなあと思ったのは、“服”を使って、いろんな人の物語をつないでいたことです。
「10万の男」(借金が)こと治五郎は、ここぞという勝負のときには、勝海舟にもらった「勝」と刺繍された上着を着るも、時々、それを質に入れてお金を作っています。手に入れたお金を、四三に、フロックコートと背広を仕立てるようにと、渡します。太っ腹。さすが「10万の男」。
でも、そもそも自腹で行かせるのはどうなのか……。
四三は、日本橋三越で立派なフロックコートと背広を購入し、着たところを三島に撮影してもらいます。
一方、ストックホルムに同行者として行けるかもと思った永井(杉本哲太)も奮発して「カンファタブル」なコートを新調しますが、残念ながら行くのは、安仁子(シャーロット・ケイト・フォックス)と夫・大森(竹野内豊)。

そして、スヤ(綾瀬はるか)の協力も得てなんとかお金を工面して上京してきた実次(中村獅童)は、田舎者の象徴・赤ゲットに身を包んでいました。四三も東京に来たとき、美川(勝地涼)とふたり包まれていましたっけ。

それにしても、思いつめてトロフィーを売ろうとしていた四三と実次の再会は、じーんっとしました。
いろいろ恵まれていそうな弥彦が、三島家ですこし孤独そうなところも描かれて……。
オリンピック関連の人たちも、浅草の人たちも、播磨屋さんも、故郷の人たちも、もうすっかり馴染んできて、誰も彼もが愛らしい。
皆さん、お気に入りは誰ですか?

このコラムの担当編集・E女史は、三島弥彦と天狗倶楽部がお気に入りで、天狗倶楽部関連書籍のチェックに余念がないようです。

私は、可児さん(古舘寛治)のいい意味の小市民的なリアクションがいちいち、ツボっています。
可児さんは、安仁子と天敵っぽいというか、このふたりのやりとりがなんだかおかしい。
古舘寛治さんはニューヨークにいたこともあるのでたぶん、英語でのコミュニケーションもできるから、芝居がしやすいのではないかと想像します。深田晃司監督の『歓待』(2010 年)でも外国人の女性俳優との芝居を面白く演じていました。

安仁子は、英語とマナーを教えるので、7話は大活躍でした。四三を「フォーティースリー」と呼ぶところも笑えました。
三島邸でのあれやこれやが面白かったです。迫力の和歌子(白石加代子)、可憐かつ凛としたシマ(杉咲花)。なんといっても「え、乃木さん?」という四三の反応。知り合いじゃないのに、なんとなくよく知ったふうに名前を親しげに呼んでしまう、有名人を見たときの一般人のリアルな反応でした。
ちなみに、乃木さん役は中村シユンさん。てがみ座公演など、舞台でご活躍されている俳優さんです。鹿児島出身。
「いだてん」で興味深いのは、夏目漱石や乃木将軍など、従来の大河ドラマだったら超有名俳優をカメオにしてもキャスティングしそうな人たちを、あっさり出すところ。このドラマが、超歴史的有名人ではない、もう少し庶民の身近なところにいる人たちのことに着目しているからこそなのかもしれません。

さて。私のお気に入りはもうひとり、ナレーションで「大河っぽいから」と「勝海舟」を連呼していた、未来の志ん生(ビートたけし)・美濃部孝蔵(森山未來)の野性味がたまりません。E女史も天狗倶楽部と美濃部ファン。志ん生が満州に行っていたときの話に興味があって、その頃一緒にいた円生の書籍などを最近、読んでいます。
井上ひさしさんのお芝居に「円生と志ん生」という、まさに満州に行っていたときの話があるんです。また再演しないかなあ…。
関連書籍が気になるようになると、ハマってきた証拠。
日曜の夜が、なくてはならない時間になってきました。

……なんてことを思っていたところ、朝ドラ「まんぷく」の2月19日放送回で、福子(安藤サクラ)がテレビを見ているとき、志ん生の落語を流していたんです。映像は映らず声だけなんですが、特徴ある語り口なのですぐわかりました。大河とさりげにコラボ。この回の演出は大河ドラマ「真田丸」の演出をやっていた保坂慶太さんでした。
大河と朝ドラのコラボって、ほかにもあるかといえば、朝ドラ「ひよっこ」で、舞台となっている赤坂の神社の由来を紹介したとき、当時放送中の「おんな城主直虎」に寄せたイラストを使用したことがありました。
朝ドラと大河、どっちも見てると楽しめますね。

【データ】
大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』


NHK 総合 日曜よる8時〜
(再放送 NHK 総合 土曜ひる1時5分〜) 
脚本:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
演出:井上 剛、西村武五郎、一木正恵、大根仁
制作統括:訓覇 圭、清水拓哉
出演:中村勘九郎、阿部サダヲ、綾瀬はるか、生田斗真、森山未來、役所広司 ほか

第八回 「敵は幾万」 演出:井上剛

 

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部)

 

著者一覧
 

映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。twitter:@fudge_2002

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1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。