シンガポールで、チンゲイパレードというチャイニーズニューイヤーを祝うイベントを観に行きました。シンガポールは、1965年の独立時から中華系、マレー系、インド系が共存する多民族国家です。チンゲイパレードではこれら民族それぞれの文化を讃え、さらにフィリピン、インドネシア、日本など近隣諸国による出し物もあり、非常に多様性あふれる構成でした。

印象的だったのは、冒頭部分で、観衆に向かって司会者が「シンガポールの外から来た人は立って~~」と呼びかけたこと。私たちも含めて外国人たちが立ち上がるのをみとめると、司会者が「Welcome to Singapore~~~~~」と叫び、皆で拍手をしてくれたのです。こうして受け入れられている感覚は、とてもありがたいものです。

 

日本では、4月から外国人労働者の受け入れが拡大され、今後5年で外国人労働者は3割増加すると言われています。排外主義の高まりが各国で報告される中、日本が既に移民や外国人労働者の受け入れを進めている各国から学べる点はあるのでしょうか。

シンガポールは多様な移民国家――。とは言っても、やはりそれでも他者に不寛容な言動はもちろんゼロにはならないようです。過去には「インド系隣人のカレーのにおいがきつい」という中華系市民の不満を受け、仲裁者が導いた「中国系の隣人が旅行中のときだけカレーを料理していいことにする」という解決策が批判を受けた……、SNSなどで人種差別的な発言をした個人が大炎上したりした……といった事例がみられます(参考文献:Mathew Mathews, Chiang Wai Fong“MANAGING DIVERSITY IN SINGAPORE”,2016年)。

ただし、ここでの「炎上」の批判内容を見ると、「多様な民族や宗教に寛容な国家であるシンガポールの国民として恥ずかしくないのか」という風に、多文化国家であるシンガポールへの愛国心があるゆえに、それを守ろうとする方向での批判が多いことに気づかされます。つまり、愛国心とポリティカルコレクトネスが一体になっているわけです。

もちろん、シンガポールでも、こういった素地があってさえ、やはり建国時からいる民族や自国民に対しての見方と、短期的にシンガポールに働きに来ている外国人労働者への見方が同じように寛容であるとは限りません。比較的新しい、しかも小規模な都市国家として、アイデンティティを模索する葛藤もあると言います(参考文献:Donald Low, Sudhir Thomas Vadaketh, “Hard Choices: Challenging the Singapore Consensus”)

ただ、日本では国旗・国家を教育の場で教えることを当然と考えたり、戦後教育の見直しを求めたりする方向での愛国心を重視する人ほど排外主義的な感情が高い一方、民族・文化的プライド(日本の伝統文化、日本社会における公正さと平等、日本のポップカルチャーなどに対して誇りに思うこと)は他の要因を取り除けば排外感情を抑制するという研究もあります(参考文献:田辺俊介 2018年「現代日本社会における排外主義の現状」『排外主義の国際比較』)。

国歌・国旗的な愛国心的政策を重視する安倍政権が、同時に外国人を受け入れようとしている、この整合性は一体どうやってとるのか。2016年には、主に外国人に向けられた差別的言動を解消することを目的としたいわゆる「ヘイトスピーチ解消法」が施行されていますが、極めて同質性の高かった日本社会は、多様な人種・文化・宗教に対して理解を深めて、共存する道を探っていく必要があると思います。