あらすじ
嘉納治五郎(役所広司)もなんとか到着し、いよいよストックホルムオリンピックがはじまった。開会式に金栗四三(中村勘九郎)は「NIPPON」とプラカードを掲げ、三島弥彦(生田斗真)と共に参加。競技を前に弥彦はプレッシャーに苛まれていたが、コーチ・大森兵蔵(竹野内豊)の助言を聞いて、立ち直る。
同じ敵に立ち向かう同士
大森が弥彦にかけた言葉「一緒に走る選手はタイムという同じ敵に立ち向かう同士と思いたまえ」が染みました。
スポーツに限らず、人間、なにかと勝ち負けにこだわってしまうものですが、他人と比べるのではなく、大事なのは、自分がどこまでベストを尽くせたか、それだけ……。
そのいい台詞をいい台詞として終わらせず、「もっと早くに言ってもらえたらもっと楽になったと思います。せめて三週間前に言ってくれてたら」と弥彦が大森に言うところも良かったです。
それを言うなら、その前の場面で、いろいろ揉めたにもかかわらず、「遅れてきて大正解」と笑って済ませる治五郎の態度も呆気にとられつつも、よかった。なにごとも笑いに置き換えるところが「いだてん」の魅力のひとつです。
ストックホルムに来てからの弥彦は思いつめ、家族にも暗いはがきを出していましたが、結果的には晴れ晴れと自分の走りを楽しみ、自己新記録を作ります。最終的には、準決勝を棄権、日本は世界の短距離走レベルに追いつくのは百年かかっても無理ときっぱり諦めます。自分で限界まで挑み、限界を知ってきっぱりやめることは、精神的にじつに健康でありましょう。「楽しかった」と笑う弥彦は清々しい。
「乙女ライト」に照らされる四三
一方、意地張るときはとにかく張る肥後もっこす・四三。心を落ち着かせるために押し花をしている場面が、「乙女」とSNSを中心に話題になりました。でもこれ、決して唐突でなく、10回で、四三は草原に咲いた花を摘んで香りを嗅いで和んでいたところからつながっています。照明スタッフが乙女ライトを照らして雰囲気を盛り上げたそうで、勘九郎さんは、歌舞伎で女形も演じられるので、かわいらしい仕草もお手の物です。
と、ここで思ったのは、11回でふんどし姿でなかなかハードなトレーニングをしていた弥彦を演じる生田斗真さんも、舞台で女性役を演じたことがあり、さらには、映画ではトランスジェンダーの役にも挑戦したことがあり、そのとき、女性以上に女性らしいというかたおやかだったのです。勘九郎さんも生田さんも、男性でありながら、女性への理解が深く、ダイバーシティの時代にふさわしい俳優なのだと思います。
スポーツというと、身体を鍛え力で相手をねじ伏せる、マッチョなイメージがついてまわりますが、そういうことではない捉え方が「いだてん」では提示されているような気がしないでもありません。大森役の竹野内豊さんも物腰がとても柔らか。安仁子(シャーロット・ケイト・フォックス)の失敗を決して咎めない、包容力ある演技をしています。四三も弥彦も大森も、そろってスポーツものとは印象が違うところが興味深いです。
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