高学歴だけど恋愛偏差値の低いオクテの婚活男子を演じる中村倫也と主人公タカコ(黒川芽以)。『美人が婚活してみたら』©2018吉本興業


イケメン俳優の共演に女性客が殺到


田中圭と中村倫也。今をときめく2人の俳優が、主人公の恋のお相手を演じていることで話題の映画『美人が婚活してみたら』が3月23日(土)から公開中。都市部の映画館には女性客が殺到し、ヒューマントラストシネマ渋谷と新宿シネマカリテでは、土日の上映がすべて満席になったという。

すでに映画を観た人はおわかりかと思うが、「こんな田中圭と中村倫也が見たかった!」というキャスティングになっている。田中はバツイチちょいチャラ歯科医役。上目遣いで「俺のこと好きになっちゃった?」と言う蠱惑的な振る舞いや、実はムキムキな裸体を晒すベッドシーンから放たれるフェロモンに失神しないようにご注意を。中村が演じるちょいダササラリーマンがヒロインに誠実に思いを寄せる姿には、「こんな人に出会いたかったな…」と思わせる安心感がある(ダサかろうがなんせ地顔がいいし)。

 

彼らの間で揺れ動く、30代の女性の婚活奮闘記を通して、女の友情の難しさと、人は誰もが孤独だという真実を突きつける本作。日本映画で、〈30代女性の婚活〉〈女同士の友情〉〈孤独〉なんてものを柱にした場合、内省的で陰鬱でジメッとした仕上がりになりかねない。その点本作は、見ていて「イテテテテッ」となる描写はあるものの、ほどよくおしゃれでほどよく笑え、そして映画館を出たときには爽快感に包まれる、大人のラブコメに仕上がっている。

WEBデザイナーのタカコ(黒川芽以)は誰もが認める美人だが、つきあった男性があとから既婚者だったと発覚するケースが3回連続するという不倫体質のせいで、気づけば30代になっていた。休日の公園でふと「死にたい…」という言葉が口からこぼれ落ち、自身の孤独に気付いてしまう。その夜、親友で専業主婦のケイコ(臼田あさ美)から「死ぬ気になればなんでもできる」と発破をかけられ、婚活をスタートさせる。

モテ系のバツイチ・イケメン歯科医を演じるのは田中圭。『美人が婚活してみたら』©2018吉本興業


30代「女の友情」のリアル


このタカコとケイコの友情関係に、「わかるわ…」と首がもげるほど頷いた。タカコが美人という設定は、婚活描写において「美人って大変だねえ」という笑いを作る部分で活かされているが、友情シーンにおいては実はそれほど関係がない。<美人>というキャッチーな包装紙を剥がして見えてくるのは、「自分の好きな仕事をしている独身のタカコに嫉妬するケイコ」と、「孤独な将来に怯えて既婚者のケイコに嫉妬するタカコ」という、実にシンプルな構造だったりする。

まず、タカコは悪いヤツではないので、意識的に美人であることを利用もしなければ鼻にもかけない一方で、自分が美人だということでどれほど得してきたかをまったくわかっていない。だから、「自分は不幸だ」とボヤくタカコに、観察者タイプのケイコは慣れていてもややイラッとし、「これだから美人は」と、なんでもかんでもまとめてしまう。そこにタカコは少しの棘と理不尽さを感じつつも、反論してもギスギスするだけなのでスルーする。

ケイコはケイコでタカコを「美人だから」と言葉では持ち上げつつも、発言はどこか上から目線。本人は自覚していないかもしれないが、独身のタカコに対して自分は既婚者であることに少しばかりの優越感があるのだろう。タカコが愚痴を言うと、彼女が経験したことのない、夫&姑の愚痴を持ち出し、話を終わらせてしまう。そして、タイプの違う2人の男性の間で浮かれるタカコに、「結婚が目的になってない? 結婚はただの儀式。そのあとの夫婦生活がメイン。そんなに甘くないんだよなー、結婚てのは」と釘を刺す。ろくな相手に出会えず、挫けそうになっていたタカコに「面白いじゃん。もっと(婚活を)続けてよ」とけしかけたのはケイコなのに…!

主人公タカコ(黒川芽以)と親友のケイコ(臼田あさ美)。『美人が婚活してみたら』©2018吉本興業

タカコもケイコも、自分が幸せになりたいし、親友にも幸せになってほしいと心から願っている。実は、女は自分よりも美人の友人にそれだけでは嫉妬しないし、なんなら美人(というか自分の好みの顔の友人)のほうが一緒にいて目の保養になるし、自分が経験していない面白い話が聞けて楽しいし、くらいに思っている。しかし、自分のコンディションが悪いときは、つい一番身近にいる親友と自分を比べてしまい、ケイコのように「美人はいいよね…!」と嫉妬の棘を刺す。チクリチクリと長年に渡って刺された棘が、体内に蓄積されて、いつの間にか巨大な刀になっていく。タカコとケイコがその刀で斬り合う居酒屋のシーンは、黒川と臼田のエモーショナルな芝居により、そこに居合わせた客のように居心地が悪い思いをする人もいれば、今までに斬りあった友達の顔が浮かぶ人もいるだろう。

親密になるほど女同士の友情は難しく、実はお互いへの繊細な配慮と愛情表現が必要になってくる。どちらかが結婚するとその難易度はさらに上がる。そこで悩んでいる多くの女性がこの映画を見たら、何かしらのヒントが見つかるかもしれない。

<映画紹介>
『美人が婚活してみたら』
 

新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
監督:大九明子
出演:黒川芽以、臼田あさ美、中村倫也、田中圭、村杉蝉之介、レイザーラモンRG、市川しんぺー、萩原利久、矢部太郎(カラテカ)、平田敦子、成河
©2018吉本興業

 

ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部)

 

著者一覧
 

映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。

メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。