もふもふのウサギや「ぴよぴよ鳳凰」など、徳川家光のゆるカワな絵で人気を集めている「へそまがり日本美術」展(@東京・府中市美術館)。決してきれいとは言えないもの、完璧ではないものになぜか心惹かれる「へそまがりの感性」に注目して日本美術史を捉え直す、その新しい視点で脚光を浴びている展覧会ですが、じつは、その原点には、一冊の本がありました。


〈ヘタウマ〉美術史ならぬ、おとぼけ美術史


「へそまがり日本美術」展の原点となったのは、『日本おとぼけ絵画史』。「へそまがり日本美術」展の担当学芸員である府中市美術館の金子信久先生が、「たのしい日本美術」シリーズの一冊として刊行したもので、金子先生は「『日本おとぼけ絵画史』はへそ展(「へそまがり日本美術」展の略称)の原点。この本をベースに、展覧会として組み立て直したのが今回の展覧会です」と話します。そもそもの始まりは、〈ヘタウマ〉をテーマにした日本美術の本、という企画。〈ヘタウマ〉という1970年代後半に生まれた限定的な言葉をきっかけに、日本美術史を広く眺め、不恰好なものや不完全なものに惹かれる感性が生み出した「おとぼけ作品」にフォーカスした本を作ることになったのです。

『日本おとぼけ絵画史』 著者/金子 信久


「絶対ふざけてるよね!」おとぼけ絵画の威力炸裂


「かわいい」「ゆるい」「パンチある」作品で話題の「へそまがり日本美術」展ですが、さすがその原点、『日本おとぼけ絵画史』のラインナップも相当なものです。画面いっぱい、なぜかあっかんべーをする達磨さん、笹を加えた雪だるま、漫画みたいなお侍……。「どうしてこんな変な格好?」「本気で描いたの?」「絶対ふざけてるよね!」そんなツッコミを入れたくなる作品ばかり、次から次へと登場します。しかも、解説はさすが金子先生、という面白さ。ふざけているとしか思えない作品の背後に隠された深い「おとぼけのわけ」を、わかりやすく、ユーモアたっぷりに説明してくれています。

 
 
 


やっぱり家光様の動物はゆるカワでした


『日本おとぼけ絵画史』でもすでに、三代将軍徳川家光の絵に注目をしていました。「お殿さまの絵ごころ」と題された章で紹介されているのは、フクロウの絵。そしてやっぱり、家光さまの動物は、黒いつぶらな瞳、もふもふ、ゆるい、そしてかわいい。さらに、「へそまがり日本美術」展で、“若冲と並ぶニワトリの画家”としての名を確立しつつある四代将軍家綱ですが、ここでも紹介されているのもやっぱりニワトリの絵。どれだけニワトリが好きだったんでしょうか。

 

家光の絵をきっかけに、これまでの日本美術史の王道から逸れた、味わい深い作品の数々に興味を持たれた方、「へそまがり日本美術」展の公式図録と合わせて、その原点である『日本おとぼけ絵画史』もご覧ください。一度読んだら抜け出せない、面白すぎる「もうひとつの日本美術史」です。

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春の江戸絵画まつり
へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで

会期:2019年3月16日(土)ー5月12日(日)
   前期:3月16日(土)ー4月14日(日)
   後期:4月16日(火)ー5月12日(日)
*全作品ではありませんが、大幅な展示替えがあります。
会場:府中市美術館(都立府中の森公園内)
特設サイト:http://fam-exhibition.com/hesoten/


金子 信久(かねこ のぶひさ)
1962年、東京都生まれ。85年、慶應義塾大学文学部哲学科美学美術史学専攻卒業。福島県立博物館学芸員などを経て府中市美術館学芸員。専門は江戸時代絵画史。著書に『旅する江戸絵画 琳派から銅版画まで』(ピエ・ブックス、2010)『ねこと国芳』(パイ インターナショナル、2012)『日本美術全集14 若冲・応挙、みやこの奇想』(共著、小学館、2013)『別冊太陽 円山応挙 日本絵画の破壊と創造』(監修・共著、平凡社、2013)府中市美術館編『かわいい江戸絵画』(求龍堂、2013)『もっと知りたい長澤蘆雪』(東京美術、2014)『たのしい日本美術 江戸かわいい動物』(講談社、2015)『めでる国芳ブック ねこ』『めでる国芳ブック おどろかす』(ともに大福書林、2015)『日本おとぼけ絵画史 たのしい日本美術』(講談社、2016)『めでる国芳ブック どうぶつ』(大福書林、2017)府中市美術館編『歌川国芳 21世紀の絵画力』(講談社、2017)『作家別 あの名画に会える美術館ガイド 江戸絵画篇』(講談社、2017)ほか。

 

『日本おとぼけ絵画史 たのしい日本美術』
著 金子 信久 2600円(税別) 講談社


「これで本当にいいのか?」日本美術史に点在する、「とぼけている」としか言いようのない絵画91点を紹介。若冲、蘆雪、仙厓のほか、徳川家光らによる江戸時代の作品から、三岸好太郎や岸田劉生らによる大正時代の「ヘタウマ」作品など、見れば見るほど、解説を読めば読むほどジワジワ来る作品が揃います。「へそまがり日本美術」展の原点となった一冊です。

 

『公式図録 へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで』
編著 府中市美術館 2500円(税別) 講談社


「へそまがり日本美術ー禅画からヘタウマまで」展の公式図録。一般書籍としても発売中。
若冲、蘆雪、仙厓、国芳といった人気画家の作品から、徳川家光の「ヘタウマ」絵画まで──「きれい」ではないけれどなぜか心惹かれる、「へそまがりな感性」が生み出した絵画138点を紹介する、新しい日本美術史の本です。

『日本おとぼけ絵画史 たのしい日本美術』のほか、料理、美容・健康、ファッション情報など講談社くらしの本からの記事はこちらからも読むことができます。
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構成 /久保恵子

出典元:https://kurashinohon.jp/1032.html


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