新年度になり、新しい環境に身を置いている人も多いのではないでしょうか。職場や学校、地域のコミュニティで、多様な人たちが出会う季節かもしれません。前回までの記事で外国人に対する偏見が生まれる構造などを扱ってきましたが、こうした偏見を排除し、異なるカテゴリーの人々が共存していくにはどうしたらいいでしょうか。
ひとつの集団が形成される過程や、複数の集団間の関係を観察したものとして、「Robbers Cave experiment(泥棒洞窟実験)」と呼ばれる心理学の有名な実験があります。互いに面識のない少年たちがサマーキャンプに出掛け、集団生活を送るうち、次第に彼らは仲間意識を高めていきます。そうして1週間くらい経った頃、自分たちとは別の集団が同じキャンプ地にいることに気付くと、少年集団同士は互いに敵対し、自集団の結束を固める一方で相手の集団に対しては攻撃的になっていったといいます。
彼らを仲直りさせ、互いの距離を縮めるのに有効だった策はどんなものだったと思いますか? 初対面の人たちが集まるワークショップなどでは、緊張を解く「アイスブレーキング」としてはじめに簡単なゲームなどをやりますが、この洞窟実験の場合、一緒に楽しめる遊びをしても効果がなかったと言います。
関係を良好にしたのは、「Superordinate goal(上位目標)」でした。つまり、2つの少年グループが協力しなければ解決できない問題を発生させ、これに取り組ませるのです。職場にはもともと「仕事」という上位目標があるはずですよね。交流や共生を目的としている地域コミュニティなどでも、こうした知見を応用させることはできるかもしれません。
私は1年前に『上司の「いじり」が許せない』という本を書きました。その取材を通じて見えてきたのは、上司や先輩たちが、新入社員をいじることで、親密性を醸し出そうとしたり、通過儀礼的に若手に序列を覚えこませようとしている様子でした。これも一種の「新入社員」というカテゴリーに対する偏見的な対応だと思いますが、相手を侮辱したり、からかったりすることで得られる「笑い」は、お互いの間の壁を壊すどころか、むしろハラスメントになり禍根を残してしまいます。
「○○人は…」「今年の新入社員は…」といったステレオタイプ化そのものは、人間の情報処理メカニズムとしてどうしても出てきてしまうかもしれません。しかしこうした偏見の芽は、さまざまな偏見が作られるメカニズムを理解しておくこと、それを悪化させないような態度を取ることで最小限に食い止めることができるのです。
そしてまた、今回紹介したような「葛藤や対立を越えていくための方法」を知っておくことも、目に見える多様性が今後ますます増していくであろう日本では有益ではないでしょうか。
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