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木綿地藍染熨斗目小華繋紋折縫絞着物 / 1960年代後半 工房草土社蔵

こんにちは。ライターのYuです。
前回の記事では民芸にまつわるライフスタイルショップ3店をお勧めしました。

今回は日本の民芸のルーツを体感できる場所として、東京駒場にある〈日本民藝館〉をご紹介します。売店や展示のご紹介もありますので、ぜひご覧いただけたら嬉しいです。

私が初めて扉を開けたのは数年前のこと。どこか懐かしく、瞬時に “民芸” の魅力を全身で感じたのでした。

それからというものの事あるごとに訪れ、二階にあるベンチに座ってゆったり過ごすのが至福の時。心に潤いを取り戻せる大切な場所となっています。

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日常の品物にこそ宿る美しさ


〈日本民藝館〉の大きな特徴は、 “暮らしにまつわるもの” に関する場所であること。

そもそも民芸とは、 “民衆的工芸” の略称で、思想家の柳宗悦(やなぎむねよし)、陶芸家の濱田庄司と河井寛次郎の3名によって作り上げられた言葉です。彼らは、 “生活の中で使うために作られたものの中に宿る美しさ” を世の中に提示しました。

それまで美の対象としてみられることのなかった民芸品の中にこそ、「健康な美」や「平常の美」といった大切な美が豊かにあることを発見。美しさとは高貴で遠くから眺めていたいような品ではなく、いつもそばにあって実際に使えるものにこそ宿るということを伝え続けました。

工芸品とは本来 “人が用いるためのもの” のこと。工芸の本質を民芸品に見出したのです。

また、近年ライフスタイルに注目が集まっている根源を辿ると、民芸こそが日本で「生活を楽しむ」という考えのはじまりだったのではないかと思っています。

そんな民芸にまつわる運動の拠点ともいえる〈日本民藝館〉は、柳宗悦の目に適った品を中心に展示されている場所。

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木綿地藍染立湧梅散紋白影絞裂 1972年

民芸思想ができた当初、「日常の雑器こそ美しい」という考えは斬新なものだったようですが、柳宗悦は生涯を通して自分の美しいと思う感覚を貫き通し、品物を集め続けました。

展示されているのは、染め物やうつわなどの衣食住にまつわる生活道具から、ちょっとゆるくて可愛いオブジェのようなものまで。
時には絵画や書の展示もありますが、共通するのはいずれも柔らかい雰囲気を纏っていることでしょうか。

柳宗悦の審美眼に触れる面白さに加え、心地良いのは館内に流れる穏やかな空気。植物のしつらえや窓からの木漏れ日など、都心に居ながらにして、四季の巡りを感じることができますよ。

建物自体も季節によって生きもののように見えかたが変わる不思議な魅力があります。

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ものの魅力を感覚的に楽しめる


先入観なしで、ものの魅力を感じ取る “直観” でものと向き合ってほしいという意向から、作品にまつわる詳しい説明書きはありません。それゆえに、見る人が自由に感じ取ることができます。

その演出により、頭で考えるのではなく感覚的にものごとを捉えられるのが居心地の良さに繋がっていると思います。

感覚的であるという点で〈日本民藝館〉は女性や柔らかな感覚を好む方々に親しみやすい場所ではないでしょうか。
また、時折小さなお子さんも楽しんで作品に見入って絵を描いている様子を見かけるので、休日に親子でお出かけするのも良いかもしれません。

私も以前訪れた際に、ついこんなスケッチをしていました。
民芸と聞くとなんだか威厳のある感じを連想するかもしれませんが、和やかなものも沢山あるんですよ。

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深澤直人さんと〈日本民藝館〉


現在の館長は、プロダクトデザイナーの深澤直人さん。

auのINFOBARを手掛けたり、無印良品に携わったりと私たちの生活に欠かせないデザインを手掛けていらっしゃるので、ご存知の方も多いかもしれません。

深澤さんは館長に就任されてから「民芸は抱きしめたくなるような愛おしさがあるものだ」と仰っています。
そして、「民芸品にはルーツを辿りきれない不思議な魅力が詰まっているので、ぜひ多くの方に見てほしい」とも。

時代の空気を最先端で感じ取っている深澤さんが館長だからこそ、〈日本民藝館〉の展示は懐かしいという感覚にとどまらず、今見て面白く、希望が湧いてくるような雰囲気に繋がっていると思っています。


使ってわかる民芸の心地よさ

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推薦工芸品売店(以下 売店)でのお買い物もオススメです。
民芸の醍醐味は、何より、ものや思想を日常で活かすこと。
館内を見学した後は、ぜひ売店を覗いてみてくださいね。

衣食住まんべんなく良い品物ばかりで、いつ訪れても一緒に連れて帰りたいと思えるものがあるから不思議です。素材を活かした、無駄がない綺麗なものが揃っています。

置かれる品物は厳しい目で選ばれているようで、作り手の方から「民藝館の売店にはなかなか置いてもらえない」という声を耳にすることがあるくらいなんですよ。

一点ものも数多くあるため、私は到着すると売店をぐるりと見渡して気になるものをチェック。そして、展示を見てから再びお買い物をじっくり楽しむようにしています。

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こちらで求めたものは沢山あり、湯町窯や作家さんの器、柚木沙弥郎さんの団扇、千葉県の郷土玩具の芝原人形、世界のテキスタイルの残布を用いたポーチ、中国は雲南省の鳥笛など。どれも求めた日から生活に馴染んでくれる相棒のような存在になっています。

毎日使っている、い草のバッグもこちらで求めたもので、使うほどに素材がしっとりとした風合いに変わり愛着が湧いてきました。

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他にも日本の籠や、メキシコのエキパルチェア、専門的な書籍に至るまでたくさんの種類の品々が並びます。多くのものが手仕事で作られており、それぞれの表情を見極めながら選ぶのが楽しい時間。

売店も展示室と同様に、説明書きのタグがついておらず感覚的に ”もの” に触れ、選ぶ時間が心地よいです。普段、いかに情報を頭に入れてから、 “もの” を見ているか感じさせられます。

とはいえ、わからないことや作家さんなどについては、尋ねれば丁寧に教えて頂けますのでご安心くださいね。


企画展「藍染の絞り 片野元彦の仕事」

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木綿地藍染流水紋杢目絞広巾 1960年代後半

展示は企画展が行われる二階の大展示室と、併設展が行われる小さな数部屋から成り立ちます。

年に数回のゆったりペースで展示が切り替わるので、期間中に何度か訪れるのがおススメです。

その度に、見えてくるものや感じることが違うのが面白いところ。忙しない心でいる時は、うまく民芸のリズムに入り込めないことがあるので、ある種自分のバロメーターにもなっています。

現在は「藍染の絞り 片野元彦(かたのもとひこ)の仕事」展を開催中。
以前〈べにや民芸店〉を訪れた際に、『藍染といえば片野さん』と教えていただき、長らく気になっていた作家さんでした。

民芸の世界では有名な片野さんですが、現存する情報は少なく、知る人ぞ知る存在。作品が見られるのは貴重な機会です。

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木綿地藍染鎧段絞着物 1970年代前半

私自身、近年植物染料に注目しています。そんな中、『人には色の深さを感知する能力がある』というお話を伺い、自然の染料に惹かれる理由がわかった気がしました。

同じ青を染めるにも現在主流の顔料とは違い、天然藍の色合いはいつまでも見ていられる気がします。
天然染料を使ったものづくりは手間がかかりますが、ものに込められた時間や愛情がそのまま作品の魅力に繋がっているようです。

 “早くて強い” ものが求められる現代にこそ、違うベクトルの価値で作られたものに惹かれるのではないでしょうか。

展示では藍染の絞りを施した着物や飾り布、暖簾などが並んでいますよ。また娘であり、絞り染作家の片野かほりさんの作品や関連資料、藤本巧さんの撮影による片野さんの写真も併せて展示されています。
だんだんと暖かくなってきましたので、目にも涼やかな藍染の絞りをお楽しみ頂けたらと思います。

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同時開催の併設展は、企画がマニアックなこともしばしばで、毎回どんなものが見られるか楽しみにしています。

そして改めて、総数約17,000点という柳宗悦のコレクションの数の多さと、どんなものにも美を見出す眼のちからに、いつも驚かされます。

ちなみに、月に数回は柳宗悦の住まいであった西館も公開されていますので、タイミングが合えば是非訪れてみてくださいね。

ぜひ一度、皆さんも〈日本民藝館〉で、暮らしの品物の面白さや、ものの魅力を感覚で楽しむ体験をしていただけたら嬉しいです。
 


日本民藝館
東京都目黒区駒場4-3-33
Tel. 03-3467-4527

藍染の絞り 片野元彦の仕事
2019年4月2日(火)~6月16日(日)
休館日 月曜(但し4月29日、5月6日は開館)、5月7日
開館時間 10:00-17:00(入館は16:30まで)

※「民藝」の文字は固有名詞以外は「民芸」に統一して記載しています。
※館内の様子は以前の展示のものです。
※許可を得て撮影を行いました。