引っ越しを伴う転勤が受け入れられず仕事をやめてしまう、いわゆる転勤離職が増えています。厚生労働省ではこうした離職を防ぐため、ガイドラインを作成し企業に活用を呼びかけていますが、効果は今ひとつのようです。

日本の会社では、辞令が出れば問答無用で引っ越しするのは当たり前のことでした。日本人の働き方は、時に滅私奉公などと揶揄されますが、強制的な転勤もこうしたカルチャーの一つといってよいでしょう。筆者もサラリーマンをしていた頃、マンションを購入した同僚が、その直後に遠距離の転勤を命じられるというケースをたくさん見てきました。

引っ越しにはかなりの手間がかかりますし、単身赴任ということになると、家族の生活もバラバラになってしまいますから、転勤の強制に多くのデメリットがあるのは間違いありません。

では、こうしたデメリットがあるにもかかわらず、なぜ日本では転勤が行われてきたのでしょうか。その理由は終身雇用制度にあります。

大企業を中心に日本は終身雇用が大前提となっていますが、これは企業から見ると、非常に負担が大きい制度です。ひとたび社員を雇ってしまうと、半永久的に雇用しなければならないわけですが、20年、30年という時間が経過すると、ビジネスの中身や拠点は大きく変化します。

ここ20年の間でも、多くのメーカーが工場を閉鎖しましたし、トヨタ・グループの発展に伴い大阪から名古屋に本社を移した企業も少なくありません。諸外国の企業であれば、ビジネスの中身や拠点が変われば、ガラっと人を入れ換え、新しい拠点で人を採用しますが、日本の場合には、在籍している社員に頼らざるを得ません。

そうなってくると、どうしても転勤という形で引っ越しをさせないと、人の都合がつかなくなってしまいます。さらに言えば、社員の平均在籍期間が長いので、不正などを防止するため、一定期間ごとに人を移動させる必要があるという事情も影響しているでしょう。

会社側も嫌がらせで転勤を命じているわけではなく、終身雇用を前提とした制度の場合には、転勤は避けて通れないという面があるのです。その証拠に若い頃は転勤に反発していた社員も、やがて管理職に昇進すると部下に平気で転勤を命じるようになります。つまり仕組みとして強制転勤が再生産されるようになっているのです。

 
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