戦後70年間、同じような制度だったにもかかわらず、近年になって転勤を強く拒否するケースが目立っているのは、本当に終身雇用が維持されるのか疑問視する社員が増えてきた事が原因でしょう。
筆者はこうした動きは日本の企業社会によい影響をもたらすと考えています。
諸外国では、仕事は家族と豊かな生活を送るための手段であると考える人が多く、転勤を命じられるとあっさり辞めてしまう人も少なくありません。皆がそういった考え方になれば、滅私奉公的な転勤はなくなりますし、当然ですが、働き方の多様化も進むでしょう。転職も活発になり、ビジネスにもプラスの効果をもたらすことになります。
転職が活発にならないことは、いわゆるニワトリとタマゴの関係に似ています。
転職が不利であると皆が考えると、ますます人は転職しなくなり、転職者が少ないと労働市場が小さくなってしまいます。会社を辞めてしまうとどこにも就職できないという状況に陥り、転職がさらに不利になるという負の連鎖です。
終身雇用制度というのは日本の伝統だと勘違いしている人が多いのですが、この制度は、戦争遂行のため国家総動員法の施行と同じタイミングで導入されたものです。集団主義的な戦時体制が、戦後の大量生産にうまくマッチしてしまったことから、戦後も継続したというのが実態です。
それ以前の日本は、米国並みに転職が激しく、元請け、下請けという従属的な契約関係も今ほど強固ではありませんでした。下請けの企業も条件が悪いとすぐに仕事を断り、別の取引先を探すケースが多かったのです。
日本は幸か不幸か、空前の人手不足となっており、とにかく人が足りないという状況が長期にわたって継続する見込みです。仕事でそれなりのキャリアを積んだ人が路頭に迷うというのはあまり考えにくいですから、転職について、もっと前向きになった方がよいのではないでしょうか。
多くの人が、自分自身や家族との生活を基準に仕事を選択するようになれば、転勤地獄といった奇妙な風習はすぐに消滅するはずです。
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