質問3「内田篤人はどんな人?(内田のどこに惹かれたのか?)」

【内田篤人】著者が見た、トップアスリート苦悩の3144日間の記憶_img0

 これも必ず聞かれた質問だ。「本を読んでください」と答えるわけにもいかず、本にあるエピソード(吉田麻也が内田の家の掃除をする、など)をいくつかお話した。ただ、これまでに内田をあまり知らない人に知っていただくためにも、最もきちんと回答する必要のある質問だったと思う。

 あくまで私の個人の見解ではあるが、内田は、かなりざっくばらんな性格だと思う。静岡で育ったサッカー選手は、子供の頃から見知らぬ人と接したり取材される機会があるからなのか、若くても大人とちゃんと話のできる選手が多いように思う。あとがきにも書いたが、内田は、特におしゃべりでもめちゃくちゃ明るいムードメーカーでもないが、高校時代からそういうコミュニケーション能力の高さを感じさせた。年齢を重ねるごとに、そのコミュニケーション能力に、オープンマインドな側面が加わって行ったように思う。例えば長谷部誠や清武弘嗣が触れているが、JISS(国立スポーツ科学センター)でリハビリを行なっている間のこと。他競技の選手に積極的に話しかけ、「長谷部さんのおごりで」などと言って食事会の開催を決めるのは内田だったという。長谷部も清武もそんな内田を意外に思っていたようだった。

 また、ドイツでの取材中には日本から来たサッカー少女たちをご飯に誘うシーンも第3章にある。少女たちからしてみれば内田など、雲の上の存在だ。だが、その時は私をうまくダシに使い「了戒さんもキミたちに話を聞きたいようだし」というような流れになったように思う。きっとJISSでの食事会は、こんな感じの延長線上にあるものだったのだろうなと想像している。

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 そういうざっくばらんに見える一方で、秘めたる闘志と確固たる意思があった。「あいつは口にしないけれど自分なりの高い基準を持っていた」というのは川島永嗣だ。吉田麻也も、欧州の高いレベルに触れる中で、変化していく内田をある種羨望の眼差しで見ていたと明かしている。自分に対して高いレベルを要求していたことは、彼が叩き出して来た結果が何よりも物語っている。

 現在の内田は、鹿島アントラーズに在籍し少し戦線離脱しているという状況だ。昨季はロシアW杯に出場したいとの思いから前半戦で少し無理をして試合出場を重ねてしまった。だが、今季以降はそうはいかない。アントラーズの主将にも就任しているから、少しでも長くプレーをと本人は決めている。だから、長く第一線でプレーするための、小休止をしているところだ。
まずは今季の後半戦、この小休止を取り返すような活躍を見せてくれるのではないかと期待している。


了戒 美子さん
りょうかい・よしこ 1975年、埼玉県生まれ。岡山、神奈川、ブリュッセル、大阪など各地で育ち、94年に埼玉県立大宮高校、98年に日本女子大学文学部史学科を卒業。2001年よりサッカーの取材を開始し、03年ワールドユース(現・U‐20W杯)UAE大会取材をきっかけにライターに転身。サッカーW杯4大会、夏季オリンピック3大会を現地取材。11年3月11日からドイツ・デュッセルドルフ在住。

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『内田篤人 悲痛と希望の3144日』
価格 1380円(税抜) 講談社 3月7日発売


ドイツ、ブラジル、日本…内田篤人の8年半を綴るノンフィクション。フットボーラー内田篤人を巡る数々の事件を新証言とともに描く。日本代表・アントラーズ・シャルケのチームメイトやスタッフ、代理人、妻……。新証言から見えてくる、これまでの人物像を覆す内田篤人とは――。世界最高峰の舞台での躍動、ブンデス屈指のサイドバック、満身創痍のブラジルW杯、代表監督への直談判、Jリーグへの電撃復帰、アントラーズ主将就任etc.フットボーラー内田篤人を巡る数々の事件を新証言とともに描いた、アスリートの真髄を詰め込んだ一冊。