「正直、どんな服が好きなのかもわかりません」

実は前回のメガネコラムを書いている途中でふと、こんな言葉を思い出していた。

時々いただくメッセージではあるのにどう答えるのがベストか分からずに、でもなにか一言お伝えしたいと、いつも頭の片隅でもやもやさせていたら、気づけばだいぶ時がすぎてしまっているなぁなんて考えながら…。

もっと感覚的に、人の目や流行りを気にしすぎず自分の好きに素直に纏おう、なんて言い続けてはきたけれど、確かに、流行りを追いかけることを楽しんできた人や服にこれまであまり興味を持っていなかった人が、急に自分らしく服を着たいと思っても、私でいうサングラスのように、それはかなりハードルが高いことなのかもしれない。

しかも選択肢の多すぎる洋服ならなおさら。

独自のセンスを磨くことに近道はないのだから、試行錯誤する時間も楽しむ余裕があればいいのだけれど、ゴールの見えない迷路から早く抜け出したいなら、情報過多な時代の今を活用してSNSで見つけた自分の好みの装いの人を参考にするのだって悪くはない。

でもいまの私が他に試す価値のある方法をおすすめさせていただくとすれば、簡単に会える自分のミューズをつくること、だと思う。
しかも自分へ積極的にファッションのアドバイスもしてくれちゃうミューズだ。

探しに行くべき場所は服のショップ。
セレクトショップでもひとつのブランドでもいいけれど、できればそのこだわりに少し憧れがあるくらいの、でも頑張れば手は伸ばせるくらいのショップがいい。

そこで、ショップの方針のまま「着せられている」のではなく、その人なりの着こなしを楽しんでいると感じる、そして何よりも自分が「素敵」と感じて自然と目に留まる店員さんを見つけられたら、最高にラッキー。
(実際はそんなに簡単に見つかるものではないかもしれないけれど…)

色や形のコーディネートの仕方や旬なアイテムの取り入れ方、アクセサリーの合わせ方…見るだけでも参考になるけれど、SNSでのぞいているのと変わらないのはつまらない。

違うのは、直接、そして簡単にコミュニケーションがとれること。

本当に服が好きな店員さんなら、買う買わないに関わらず、聞けばきっと、出し惜しみなく嬉しそうにたくさんの知識やアドバイスをくれるはず。

行くたび素材や形のこと、洋服の知識や情報、そしてその素敵なミューズの視点を通しての流行の取り入れ方を直接教えてもらえるのは嬉しいもの。

話を聞きながらそこに置いてある服の生地の手触りに感動したり、ボタンのこだわりに関心したり、纏ったときの新鮮なシルエットに驚いたり…

そんな体験を繰り返すうち、そのお店で最も心動かされた逸品に出会えたら思い切って購入を。

いつもの服より価格が多少高くても、誰かや何かに影響されてすぐに飽きる衝動買いがなくなればずっとお得。
ついに手に入れたそのアイテムは、出会うまでのストーリーが十分に積み重なり、自分にとってだけの価値もそうそう吟味せずにさっと買ってしまう服の数枚分、いや数十枚分あるかもしれない。

訪れるたびいつも何枚も買ってくれる気前のいいお客様、ではなく、服に愛があって納得できるものが見つかれば大切そうに持ち帰ってくれるお客様、になること。「買うかどうかさえ分からないのに」なんてモジモジせずコミュニケーションをとってみて。売り文句上手だけでない、知識やセンスのある店員さんとのやりとりは、万が一買い物を失敗したとしても授業料と思える価値があるはずです。


そして、1シーズンに一着でも、そんな服を手に入れていると、ある日ふと、そのミューズの視点を通さなくとも、私、こういうディテールが好きなのかも、と思えるようになってきたら“独り立ち”のサイン。

きっと他のお店でも、好みな服を手に取れる自分へと成長しているはずなのです。

さて、貴女は自分のスタイルに迷ったとき、どんなことに目を向けますか?貴女にとっての会えるミューズは誰ですか?

ある方はみんなに似合わないと大反対された憧れのメガネを着けこなせる人になってみせると決心して購入し、今やそれがトレードマークになっているそう。もし本当に着たい服やテイストがあるのなら、今の私じゃ似合わないと諦めるのではなく、買って着続け、似合う自分に変身していくことも素敵だと私は思います。