「何回も言ってるでしょ!これひとつで一気に安っぽく見えるんだから本当に気をつけて!」

それはある撮影のロケバスでのこと。
みんな少しバタついていたのか、中に人はほとんどいなかった。

決して声を荒げたわけではないけれど、普段冗談を言ってばかりでムードメーカー的存在のスタイリストさんが発するいつもとは違った少し厳しい声に、私は思わずそちらを向いた。

彼女がアシスタントの女の子に注意していたのは、ワンピースに付属した共布のベルトのシワのこと。

これから撮影する服にプレスをかけるのはスタイリストアシスタントの大切な仕事のひとつだけれど、ベルトにだけかけ忘れてしまっていたらしい。

「むしろここが1番大切なくらいなんだからね。大人の服はね、…」

なにげなく聞いていた話の途中で、急に我にかえった。

あれ?私はどうだったかしら…。

そもそもワンピース好きな私は、共布ベルトのアイテムを手にすることがとても多い。
さらっと羽織る春夏もののロングアウターも、私が手にとるものには大抵ベルトがついている。
着るたび結ぶものだからシワもつきやすく、どうしても前回に着た跡が残りがちなのも事実。

もしかしたら、知らぬ間に “安っぽい女”になってしまっていたかもしれない…。

慌てて自分のウエストに目をやったけれど、幸いにも共布ベルトをしておらず、“よかった〜”と心の中で安堵の声が響いた。

この日は一日中ベルトのシワ問題が頭から離れなかった。
夜、家に着くとそのままクローゼットに直行し、ベルト付きワンピースを引っ張り出した。

少しシワになったままのベルトと、綺麗にプレスしたベルト。
同じワンピースでも、着比べると印象がまったく違う。

脇や肘以外の袖部分や前身頃など、一日中立ち座りしていてもつくはずのないところにシワがあると、散らかった家に住んでいますとみんなに宣伝しながら歩いているようにも見えるから、大人の女性としてこれまでも最低限の注意は払ってきたつもり。

でも、ベルトは完全に盲点で、そこまで気にしていなかった。

スタイリストの彼女が「むしろ1番大切なくらい」と言っていたのも今なら納得できる。

この日をきっかけに、出かける直前の全身鏡での最重要チェックポイントのリストへ、新たに”ベルトのシワ”が加わった。

さあ、貴女は出かける前は自分のどんなところを見ていますか?

リネンなど、アイテムによってはアイロンでプレスされすぎた服はぬけ感がなくて素敵ではないと思うけれど、ベルトだけはピンとしている方が断然服がリッチに見えるのは確か。 ちなみに私自身の服は普段、アイロンより水スプレーやシワ取りスプレーを全体にかけ、服の重みでほどよくシワを取るくらいが好き。旅行にも欠かさず霧吹きをスーツケースに入れています。