日本の総人口における就業者の割合は50%を超えていますが、これは主要先進国の中ではかなり高い数字です。日本は、老人や子ども、病気の人など、物理的に働くことができない人を除いて、老若男女問わず、ほぼすべての人が働きに出ている状態ですから、家族の誰かが介護に専念するというのは現実的に難しいでしょう。

北欧のケースを引き合いに、欧州には立派な介護制度があると紹介されることも多いのですが、現実は少々異なります。確かに政府が責任を持って個人の介護を担う国もありますが、日本と同様、家族主義的な傾向を色濃く残すイタリアなどでは、家族が介護するケースも多いと言われています。

 

ただイタリアの場合、介護する人がいないという問題は日本ほど深刻ではないようです。その理由は企業の生産性が高く、日本より少ない労働者数で同じ経済水準を維持できているからです。イタリアの就業率は日本よりはるかに低く、5人のうち3人は無職ですから、数字上は、世帯収入を減らすことなく、家族や親類の誰かが介護を担当できます。

日本の場合、そうはいきませんから、介護のために一時的に仕事を辞めるという、いわゆる「介護離職」を選択する人が出てくることになります。日本では年間約10万人が家族の介護を理由に離職しているといわれており、政府は対策に乗り出していますが、今のところ状況は改善していません。

ほかに手段がない場合には仕方ありませんが、もし家族の誰かが要介護者になっても、可能な限り介護離職は避けた方がよいでしょう。その理由は、在宅で家族が介護するにしても、介護サービスの利用は必須であり、そのためにはお金が必要だからです。

実際に経験のある人なら実感として理解できると思いますが、1日中家にいられるからとって、1人ですべての介護を行うのは困難です。家族の何人かが順番に担当できる状況であればまだマシですが、単独での介護が続くと、精神的にかなり追い詰められてしまいます。

家族が働きながら、それぞれに介護の時間を確保し、それでも足りない部分についてはお金を払って外部の介護支援サービスを利用した方がうまくいきます。

転職市場が貧弱な日本の場合、一度、会社を辞めてしまうと、同じ条件での再就職が難しいという現実についても考慮しなければなりません。親の介護は大事ですが、将来的には自身の老後のことも考える必要がありますから、生涯年収を減らす決断はしない方がよいでしょう。

一部には、外部のサービスを使うことに抵抗感を持つ人もいるようですが、これは正しい感覚とはいえません。一定の経済力を維持しつつ、必要に応じて外部のサービスを使った方が、要介護者にとっても、介護者にとってもメリットがあります。

 
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