厳格だった父親が認知症になったという現実に向き合う、家族の7年間を描く『長いお別れ』。『湯を沸かすほどの熱い愛』で脚光を浴びた中野量太監督が、直木賞作家、中島京子の原作を映画化した作品です。竹内結子さんと蒼井優さんがこの映画で姉妹役として共演。まずはオファーを受けた理由からうかがいました。

 

竹内 結子 1980年4月1日生まれ、埼玉県出身。96年に女優デビューし、NHK連続テレビ小説『あすか』(99)のヒロイン役で注目を集める。映画『黄泉がえり』、『いま、会いにゆきます』、『春の雪』、『サイドカーに犬』では数々の映画賞で主演女優賞を受賞し、映画やドラマを中心に活躍。最近の出演作に映画『コンフィデンスマンJP』、ドラマ『スキャンダル専門弁護士QUEEN』、配信ドラマ『ミス・シャーロック』などがある。映画公開待機作に『決算!忠臣蔵』(2019年11月22日公開)がある。

蒼井 優 1985年8月17日生まれ、福岡県出身。99年にミュージカル「アニー」で舞台デビュー。01年に『リリイ・シュシュのすべて』のヒロイン役で映画デビューを果たす。『フラガール』では数々の映画賞を総なめに。また、『彼女がその名を知らない鳥たち』では日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した。映画、舞台を中心に活躍、映画公開待機作に『宮本から君へ』『ロマンスドール』がある。


竹内「今まで見たことがないもの、演じたことがあるような女性でも何か新しいところを感じたら、お引き受けしたいなと思うんです。今回もそういう期待がありました。最初に監督に家族が認知症になったという経験がないのですが大丈夫でしょうか? と聞いたら“そのままいらしてください”とおっしゃったので飛び込んでみよう、と。お父さんが山﨑努さんで妹が蒼井優さんと聞いて、私がポップな感じで入っていっても大丈夫かな? という心配はありましたけれども(笑)」

蒼井「山﨑努さんがお父さん役ということが決まっていて、憧れの偉大な大先輩のお芝居を間近で見られるチャンスを断る理由はない、という感じでした。あとは監督によって違う家族観にも興味があったんです。私自身は山田洋次監督が描く“家族って面倒くさい”派だけれど、脚本を読んだ印象では中野監督は“家族って素晴らしい”派。どちらが正解ということはなくて、自分とは家族観が違う監督との仕事を体験してみたいという気持ちもありましたね」

 

竹内「私は、もしも家族がこうなったときにどうしたらいいのか、答えがこの作品に入ったら見つかるかもしれないという期待もあったかもしれないです。でも結果的には正解は見つからなかった。現実に直面したらショックで大変なことの連続だろうけれど、限られた時間をいい時間だったと思えるように日々過ごせたらいいよね、という思いは残りましたね」

 

夫の赴任先であるアメリカで暮らし、慣れない海外生活や忙しい夫と思春期に差しかかった息子との関係にも悩んでいる長女。カフェを開く夢を持ちながらも、仕事にも恋愛にも立ち往生している次女。姉妹ならでは親密な空気感や温度感は、リハーサルを通して作られたものだとふたりは声を揃えます。

蒼井「お母さんから、お父さんが認知症になったと聞くシーンのリハーサルのとき、竹内さんが泣いちゃったんですよね」

竹内「悲しいとかじゃなくて、ショックだったんです。でも監督から“グッとこらえてください。そういうときに泣いちゃうのは妹です”って。そういうやりとりを重ねながら、姉妹の関係性をつかんでいきました」

蒼井「向き合い方で、監督の姉妹観に触れられましたよね」

竹内「私には姉がいるんですけど、女同士って口さがないといいますか無遠慮といいますか…、みたいなところがあるんですよ。この映画ではお母さんも姉妹もどこかほんわかしていて、いいたいことを言い合っていてもお互いへの気遣いがある。竹内家にはないテイストでした(笑)。姉は家のことを妹に任せている後ろめたさ、妹は将来のことを責められると弱いというところがあるからでしょうね」

蒼井「私は兄だけなので、姉妹がどんな感じかわからなくて。竹内さんはお姉さんがいらっしゃるからとにかく付いて行こう、と思っていました(笑)」

竹内「今さらながら責任重大だったのね(笑)。監督はセリフの言い方も細かく調整してくださる方なので、監督が思う姉妹の空気感を出せるように心がけていました」

ミモレ世代のなかには、長女が抱える夫婦のコミュニケーション不足の問題に思いを寄り添わせる人も多いかもしれません。ハンカチをモチーフに雪解けの兆しを感じさせるシーンが胸に迫ったことを伝えると、「私もあのシーン、大好きでした」と蒼井さん。

竹内「ときにはこちらの話を黙って聞いてほしいときがあるじゃないですか。なのにこの旦那さんは“これってこういうことだから、そんなことを考えても意味ないんじゃない?”みたいな感じだから妻はモヤモヤがたまっちゃうんですよね。そういう人が自分を振り返ってくれると、やっぱりうれしいと思う。正論ばかりを言う夫を演じた北村有起哉さんは、“いつもごめんね”って謝っていました(笑)。ちゃぶ台をひっくり返す前に気持ちをちゃんと伝えて、相手も自分もサインをないがしろにしないようにすることが大事なのかな、と思いましたね」

蒼井「うちの父は子供を敵に回してでも母親を守るんですよ。それで父親と大喧嘩したことがあります。たとえ私が悪くなくても、父親は光の速さで母親の味方をするから(笑)。父親がそれをやり続けたことで、子どもたちは大人になってから“わりといい家族じゃん”って思えるようになりました」

竹内「すごい素敵、ドラマチック!」

蒼井「いまだに恋しているみたいな感じだから、勘弁してくれよ、って(笑)」

誕生日には全員が紙でできた三角帽子を被るなど、家族のルールが描かれるほほえましいシーンも登場します。ふたりを育んだ家族のお約束も気になるところ。

蒼井「うちはハグをすること(笑)。父親は大阪の人なのでどこで覚えたのかわからないんですけどアメリカナイズされていて、うれしいときとかすぐにハグ。映画の撮影のあとでハグをしながらお疲れさま、みたいなときに抵抗がないのは父親のお陰ですね。この前、福岡に帰ったときも空港でハグしました」
竹内「竹内家では誕生日の人が食べたいものを何でも言えるっていうのがありました。今でもよく覚えているのは、私がおでんとグラタンと答えたこと。炊き出しで使うみたいな大きい鍋におでんを作ってくれて、一週間くらいかけてみんなでやっつけたんですよね。グラタンの記憶がかすむくらい強烈な思い出です」

©2019『長いお別れ』製作委員会 ©中島京子/文藝春秋
©2019『長いお別れ』製作委員会 ©中島京子/文藝春秋
 
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