米倉涼子さんが、過去に観た映画を紹介するアーカイブ コレクション。
そのときに観た映画から、米倉さんの生き方、価値観が垣間見えます。

【シネマコレクション・58】<br />目をそむけてはいけない真実『それでも夜は明ける』_img0
Fox Searchlight Pictures / Photofest / ゼータイメージ

アカデミー賞の作品賞を受賞したことで大きな話題となった『それでも夜は明ける』を紹介します。主人公は家族と幸せな日々を過ごしていた黒人のバイオリニスト、ソロモン。ある日突然拉致され、奴隷として過酷な労働の日々を強いられるという物語です。

心優しい人物に見えた大農園主に見限られて売り払われた先は、広大な綿花畑農家。ひたすら綿を摘み、サディスティックな白人の主人の暴力におびえる毎日が描かれていきます。
若い女性の背中を鞭で打つシーンは思わず目をそむけたくなるほど衝撃的でしたが、全体の描写は淡々としたタッチ。脱走を試みながらも息をひそめるようにして暮らすソロモンも、大げさに辛そうな表情を見せることもありません。
そこが意外だったのですが、監督は12年に及んだという奴隷生活の実話の重みをドラマチックにあおることなく、誠実に描きたかったのかもしれませんね。

唯一さわやかでやさしい風を感じたのが、ブラッド・ピットの登場シーン。ソロモンに希望を与える役柄を演じていて、ここ数年で観たブラピの中で最もかっこいい役柄でした。
観ている途中で何度も胸が苦しくなる映画ですが、伝わってくるのは、絶対に撮っておかなければという作り手側の使命感。観ているうちにこういう事実は知っておくべきだという気持ちが芽生えて、スピルバーグ監督が奴隷制度を題材にした『アミスタッド』も続けて鑑賞しました。
こうして“つながって”いく感覚も映画を観ることの醍醐味のひとつだと思います。

『それでも夜は明ける』
『SHAME-シェイム-』で注目を集めたスティーヴ・マックィーン監督が、19世紀前半に黒人男性が残した奴隷生活の手記を映画化。黒人が置かれた歴史を描き出し、今年のアカデミー賞作品賞などを受賞。出演はキウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー。 

取材・文/細谷美香
このページは、女性誌「FRaU」(2014年)に掲載された
「エンタメPR会社 オフィス・ヨネクラ」を加筆、修正したものです。