6月公開の映画『新聞記者』は、ある内部告発に端を発した疑惑を追う女性ジャーナリストの物語。「医療系大学の新設を巡る利権」「権力の癒着」「官僚のスキャンダル」「内閣情報調査室(内調)の暗躍」……そこで描かれるのは、現実でもどこかで耳にしたことがあるような話ばかり。原案は東京新聞の記者、望月衣塑子(もちづき いそこ)さんによる『新聞記者』。内閣の定例会見での、菅官房長官とのバトルで知られる彼女は、伊藤詩織さんの会見を受け、いち早くご本人にインタビューした記者としても知られています。

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ハラスメントに声を上げることは、忖度社会を拒否することでもある【東京新聞記者・望月衣塑子】_img0
 

望月衣塑子 1975年、東京都生まれ。東京・中日新聞社会部記者。慶応義塾大学法学部卒業後、東京新聞に入社。千葉、神奈川、埼玉の各県警、東京地検特捜部などで事件を中心に取材する。2004年、日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑の一連の報道をスクープし、自民党と医療業界の利権構造の闇を暴く。経済部記者などを経て、現在は社会部遊軍記者。防衛省の武器輸出政策、軍学共同などをメインに取材。著書に『武器輸出と日本企業』(角川新書)、『武器輸出大国ニッポンでいいのか』(共著、あけび書房)、『新聞記者』(角川新書)。二児の母。


映画『新聞記者』には、伊藤詩織さんの事件をもとに描かれた場面があります。自身のレイプ被害を実名と顔を公表して告発した会見、その後の場面はそのまま、望月さん自身が経験したことです。

「特派員協会で行われた詩織さんの会見には、ネットも含めて大手メディアは全社来ていたんです。他社に抜かれたら嫌だから。なのに終わった後、各社が互いに“お前のとこやる?どうする?”と“談合まがい”なことをしてる。本当に、最低だなと。新聞では普段はそういうことは見たことがなかったから驚きました。さらに、加害者とされる人物の不起訴処分が確定し、報道機関に対して名誉棄損訴訟をちらつかせたこと、安倍首相に近い人物だったことで、メディアは完全に及び腰になってしまった。でもBBCもニューヨーク・タイムズも書いているわけですから。

テレビの報道においても、社の上層部からの圧力があったと聞いています。もちろんお上から文句を言われるということは、以前にもちょいちょいあったこと。“また電話がかかってきた”くらいで笑って流す程度のことだったんです。でも今は“官房長官の秘書官から連絡が”と大きな問題になってしまう。上層部が政権となれ合いの関係になっているから、現場の中間管理職たちが目を付けられることを恐れ、及び腰になってしまうんです。モリカケ問題で左遷され退職を余儀なくされたNHKの相沢冬樹記者がいい例ですが、人事権を握る上層部と政権との関係があり、それを現場が肌で実感しているから、委縮してしまっているんですよね。
またテレビ朝日では、安保法制や原発、憲法改正、年金問題などを取り組んできた松原文枝経済部長が、7月の人事異動で新設のイベント事業戦略担当部長に移ることになりました。彼女がディレクターとして企画・制作した、報道ステーションの「ワイマール憲法の教訓」の特集は、2016年のドキュメントの最高位「ギャラクシー大賞」と日本ジャーナリスト協会賞を受賞するなど、実績は十分です。
テレビ朝日の記者達からは「政権を批判する報道を続けてきたことへの明らかな報復・粛正人事だ」と批判の声が聞こえてきます。安倍一強が続く中で、メディアの幹部達が政権に擦り寄るような動きが目立ちますが、これはメディアの自殺行為ではないでしょうか」

 
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