少し意外な感じがするかもしれませんが、文意を冷静に解釈してみてください。言い方こそ丁寧かもしれませんが、いずれのパターンも、「受け入れられない」「こちらの事情も忖度しろ」という話を相手に一方的に押しつけているだけです。
こうしたセリフが出ているということは、力の強い相手から無理難題が寄せられている状況と考えられますが、ここで自身の要求ばかり主張しても問題は解決しません。なぜなら、これを返された相手は、譲歩するか、押し切ってしまうのかの二者択一になってしまい、気持ちよく交渉を終わらせられないからです。
一方、ギブ・アンド・テイクの関係をよく理解している人は、相手との間に力の差がある場合、基本的に無理難題であっても、まずは受け入れる意思を相手にハッキリ示します。受け入れる意思をハッキリ示せば、相手は安心しますから、ここで交渉の主導権をある程度、自分に引き寄せることが可能となるわけです。
そして、相手から提示された条件を受け入れる代わりに、必ず、別の条件を相手に提示し、取引に持ち込みます。ここで重要なのは、提示する条件は、相手にとって受け入れられやすい内容であるという点です。例えば、相手からの無理難題が価格面での話であれば、納期や支払い期限など、相手が受け入れやすいテーマで別の条件を出し、この部分は必ず相手にのんでもらうのです。
どんなに小さな話でも、必ずギブ・アンド・テイクの体裁を崩さないようにすることで、力関係がある中でも、対等な状況を作り出すことが可能であり、これが後の取引にも大きく影響します。
この話は、会社の上司と部下の間でも成立すると考えてよいでしょう。
上司からあまりやりたくない仕事を振られた時、あなたはどう対応しているでしょうか。上司との力の関係上、仕事を断るという選択肢がない場合には、受け入れるしかありませんが、どう受け入れるのかによって状況は大きく変わります。
間髪入れずに「ハイ、分かりました」と答えるのと、嫌々であることがハッキリ分かる態度で受け入れるのとでは、上司の印象はかなり違うはずです。上司の側は、面倒な仕事を振っているという感覚を持っているはずですから、逆に考えれば、ここは最大のチャンスです。
「ハイ、分かりました」と答えた後に、「そういえば相談があります」といって企画書の打診をすれば、通る確率はかなり高くなるでしょう。
こうした交渉のやり方は、実は男女間や親子間の駆け引きでも頻繁に行われており、決して特別なものではありません。賢い子どもは、おもちゃをねだるタイミング心得ているはずです。大事なのは、いつでも相手と交渉できるよう、常に材料を用意しておくことです。
前回記事「年金保険料は「払ったほうが得」。そう言い切れるこれだけの理由」はこちら>>
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