芸人の闇営業(直営業)事件、それにまつわるなんやかやには、ほんとにモヤモヤさせられます。なんでそんなことしたの、なんで嘘ついたの、というあたりもそうですが、何しろモヤるのは、他の件に関してはしたり顔で意見するコメンテーターなる人たちが、この件に関してはヌルいことしか言わないことです。
「特定の事務所の芸人のギャラが安い」「その事務所を悪し様に言えない」「実はみんな(私も)やったことがある」「実は事務所も見て見ぬふりをしている」「芸能界ってそもそも興行だし」みたいなことを多くの人が共有しているがゆえの、あんまり厳しいこと言うとなんか出てきたときに困るからほどほどに――みたいな護送船団的空気。私が見ていた某番組では、いつももっともらしいこと言う女装タレントが「そんなに悪いこと?」とのたまって坂上忍(たまにマトモ)にドヤされていました。当たり前。支払われたギャラがどこかのお祖母ちゃんからむしり取った金かも……と思えば、少なくとも公の場では、そういう開き直りはできないと思うんだけどなあ。
そもそも世の中には、売れない役者とか売れないライターとか売れないミュージシャンとか、本業で食えない人はたくさんいて、そういう人たちが(もちろん芸人さんの中にも)地道に一般的なアルバイトで食いつないでいるわけだし、「時間が自由に選べる」バイトなんかもあると聞く昨今、「金がないから(たとえ反社とつながっている可能性があるとしても)闇営業をやる」「闇営業が反社とつながっていることを判断しにくい」などの言い訳を「仕方ない」と許容する人たちにも、私はめちゃめちゃモヤるのですが、まあそれは他の詳しい方に語っていただくとして。
「尋常でない場」を「尋常でない」と思わなくなる仲間意識
このニュースを聞いた私が「ああああ…」となったのは、そうしたニュースの何やかやに漂う、芸能界の激しいホモソーシャルぶりです。ホモソとは社会学用語で「同一性の関係性」のことで、一般的にホモソといえば男性のそれ、いわゆる「男の絆」というヤツで、「オヤジに(兄貴に)一生ついていきます」とか「女には理解できない男の世界がある」みたいな感じで語られる、ヤクザとか体育会系とか永田町(政治)とか霞が関(官僚)とか広告代理店とかにまん延しているアレです。
映画なんかで美しく描かれたりすると、私なんかは「あら悪くないじゃない」と思っちゃうこともありますが、よく考えたらそれは性別とは関係ない、単なる絆に惹かれていたわけで(『マッド・マックス 怒りのデスロード』のシャリーズ・セロン&トム・ハーディーの関係で実感)、現実世界のそれはそんなに微笑ましいものではありません。なぜかというと、女性を下位に置き排除する意識(女性蔑視=ミソジニー)と、同性愛者でないことの証明(同性愛嫌悪=ホモ・フォビア)がワンセットになることが多いから。つまりその仲間になるためには、「男の世界を女が分かるはずがない」と「男なら一緒に下ネタ楽しもうぜ」に、「そうだよな!」って言わなきゃいけないんですね。面白いのは、女性もこの試験をパスすれば、名誉男性として仲間に入れてもらえる。思い当たる人いますね、この人とか、この人とか。
この報道の中で本当によく聞く「義理があるから頼まれたらイヤとは言えない」とか「断ったら顔をつぶすことになる」とかいう言葉は、この世界の典型です。ていうかこうやって言葉だけ出してみると、ほとんど仁侠映画かと思うわけですが、これ裏を返せば「俺の頼みを聞けないのか」「仲間なのにお前だけ裏切るのか」「俺の顔をつぶすのか」というプレッシャーがあると感じている、もしくは「ある」と感じるまでもない、それが当然だということが、骨の髄までしみ込んでいるってこと。こうした世界にパワハラやセクハラが蔓延しやすいことは言うまでもありません。
正直言えば、現場の――特に二番目に発覚したパーティの写真なんかを見ると、芸人さんは脱いでるし、お札の首飾りつけてるし、個人的な感覚で言えばあんまり尋常な場とは思えません。ある大企業に勤める私の友人がかつて所属していた、セクハラがまん延していた最悪の部署で初めて参加した飲み会の話を思い出します。常軌を逸した乱痴気騒ぎに耐えられずその場を後にした彼女は、翌日上司になじられたそうですが、ひどいセクハラでしたが報告していいんですか?の一言で、相手はスーッと引いていったそうです。
もちろんそれを「尋常な場でない」と思うかどうかはその人それぞれの感覚なので、芸人さんは「尋常でない」と思わなかったのでしょう。でもあの風景を「尋常でない」と思わないのが、そもそも芸能界の「ズレてるところ」と言う気もします。仲間内の飲み会ならいざ知らず、闇営業とはいえ仕事として引き受けた場としての、そうした風景が。強いものに巻かれ、弱いものを笑い、男性が女性の見た目や性的なことをネタにする「ホモソ芸」以外に、なんか面白いことできないんですかと。
そして「尋常じゃない」と思っても、「その場では断れない、断ったら何されるかわからないし…」と世の中が同情することにも、私は妙にモヤります。これがセクハラやレイプなら「殺されることを恐れてNOと言えなかった女性」は袋叩きされるところでしょう。これもまた、日本が男社会であることの証左と思えてなりません。
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