米倉涼子さんが、過去に観た映画を紹介するアーカイブ コレクション。
そのときに観た映画から、米倉さんの生き方、価値観が垣間見えます。

 
ゲイのカップルの切ない実話『チョコレートドーナツ』【米倉涼子のシネマコレクション】_img0
写真:Collection Christophel/アフロ

ʼ14年の春、ブロードウェイで観たアラン・カミングとミシェル・ウィリアムズの『キャバレー』は、本当に素晴らしいミュージカルでした。今回紹介するのは、そのアラン・カミングが出演した映画『チョコレートドーナツ』。この映画のアラン・カミングは、女っぷりがよくて男気があって、しかも無理にきれいにしていない生々しさがある。あらためて、やっぱりすごい俳優さんだなと思いましたね。

主人公はアラン演じるショーダンサーのルディと、ゲイであることを隠している弁護士のポール。愛し合うようになったふたりは、母親に育児放棄されてしまったダウン症の少年、マルコと出会います。
ふたりはマルコを引き取って家族のように暮らしはじめますが、そこに向けられたのは世間の偏見の目。ゲイであるがゆえに彼らがどんなふうに差別され、闘ったのかが描かれていきます。

同情を買おうとしているのでは? という題材を扱った作品には、ちょっと身構えてしまう私。
でもこの映画は、心配していたようなタイプの作品ではありませんでした。たぶんダウン症のマルコを演じていた少年が、賢さを感じさせてくれる子だったからだと思います。

ルディとポールが親になろうとする熱い思い、社会に出ていこうとするゲイのカップルのつらさ。裁判の場面もとてもうまく撮られていて、そのどれもが心に刺さってきましたね。’70年代の実話がもとになっているそうですが、実はマイノリティの人々に対する差別と偏見は、今もあまり変わっていないのかもしれない。そんなことも考えさせてくれる映画でもあります。

『チョコレートドーナツ』
主人公はゲイのカップルとダウン症の少年。疑似 家族の絆を結ぶ3人の束の間の幸せと、世間との不条理な戦いを、’70年代の実話をもとに描く。慈しみと悲しみにあふれたラストも、忘れがたい余韻を残す。公開時には泣ける作品として話題を集めてクチコミで感動が広がり、異例のロングランヒットを記録した。

取材・文/細谷美香
このページは、女性誌「FRaU」(2015年)に掲載された
「エンタメPR会社 オフィス・ヨネクラ」を加筆、修正したものです。