悩んだ先に辿り着く
女優としてのあり方

 
 

その場でわきあがってきた自分の感情を大切にしてお芝居をすることに重心を置くと、「"何をやっても米倉涼子だね"と言われるようになった」と語るが、素顔を知る身近な人たちからは"もっと自信を持て"と言われてきたタイプだ。 「昔から持てないものを急に持てと言われても無理じゃない? って思うんですけど、役として求められるのは、強い、負けない、怖い、みたいなキャラクターなんです。でもだからこそ、『ドクターX』の大門未知子のように自信がある役は、自分じゃ言えないようなことを言えるのが楽しい。最初は、嫌だったりもするんですけどね。"私、絶対失敗しないので"というセリフも、そんな人間いるの? って戦ったりもしたし、初めの頃は気持ちを押し殺して言っていました。でもきっと未知子は"失敗しない"と自分に言い聞かせているんだな、と私のなかでバックグラウンドができて、それからは言いやすくなりましたね」

当たり役を得て、高視聴率を期待されるプレッシャーとも、無縁ではいられなくなった。 「以前は先輩たちが数字を気にしていることに抵抗があって、主役も2番手も変わらないと思っていたんです。でも自分がいざその立場になってみたら、かかってくる重みやプレッシャーが全然違う。評価されることがあると同時に誹謗中傷もありますけど、私はネットをあまり見ないからちょうどよかったかな。昔から自分ではどうしようもないことに対して、"まぁ、いいか"って思えるところはありますね。あとはやっぱり私は、とにかく人に恵まれているんです。何も隠す必要がなく家族ぐるみでつきあっているスタッフや芸能界の友だちのほかにも、違う世界で経験を重ねている人や外国人の友だちもいる。そういう人たちとたくさん話をすることで、違うカルチャーを知ることも楽しいんですよね。アルゼンチンタンゴという夢中になれる趣味にも出会えたから、今は仕事とお休みの日の切り替えがすごくうまくいっていると思います。アルゼンチンタンゴはまだうまくできないことがいっぱいあるから、楽しいだけじゃなくて悔しい瞬間も多いんですけど、気合と悔しさと根性で生きてきた私にぴったりです(笑)」

人との出会いには恵まれていると何度も語る彼女のなかには、コミュニケーションをするときのルールがあるのだという。 「"ごめんなさい"と思ったらすぐに謝ること。私は短気で思ったことがすぐ顔にも出ちゃうんですけど、昔はうまく謝れなかったんです。でも今はもしかして傷つけてしまったかな、と思ったらすぐに言えるようになりました。面倒くさいことが嫌いだから、いつも包み隠さずにいたい。嘘をついてつきあわなきゃいけない友だちはいらないと思っているから、人づきあいはとてもシンプルです」

 

新しい景色が見える場所を開拓してきた原動力は、尽きることのない好奇心と感謝と悔しさ。かつてコンプレックスだった"目の強さ"は『ドクターX』で高く評価され、ヒット作へと押し上げる武器のひとつになった。満足することなく自身をアップグレードし続ける彼女にとって、女優という仕事の魅力とは何なのだろう。 「高みに上がるための努力をしなきゃいけない状況にいられること。一年間休んだら、ずっと好きなものを食べたり飲んだりして、たぶんひどいことになります(笑)。目の前のことを大事にしたいから目標は立てないし、来年何をしているかもわからないけれど、この仕事のお陰で気持ちを引きしめていられる。自分の素材をいかすための、最高の居場所です」

※この記事はFRaU 2019年9月号から抜粋したものです
撮影/渞忠之(渞忠之写真事務所)
スタイリング/野村昌司(STUTTGART)
ヘア&メイク/奥原清一
ネイリスト/菅美香子 取材・文/細谷美香
編集/村松亮(SHIKAKU inc.)
構成/辻本公子、片岡千晶(編集部)

 

 

 

『FRaU2019年9月号』
¥780(税込) 講談社

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