米倉涼子さんが、過去に観た映画を紹介するアーカイブ コレクション。
そのときに観た映画から、米倉さんの生き方、価値観が垣間見えます。

写真:Collection Christophel/アフロ

戦後70年、たくさんの戦争映画が公開された2015年の夏、中から『ふたつの名前を持つ少年』を紹介したいと思います。
実話をもとにした映画が好きなこともあり、これまでも『シンドラーのリスト』や、この連載を始めてからも『サラの鍵』『さよなら、アドルフ』などナチスを題材にした作品をたくさん観てきました。
ヒトラーの人間としての脆もろさを描いた作品なども観ましたが、もちろんナチスに対する気持ちはいつも同じ。こういう悲劇は二度と繰り返してはいけない、という憤りを感じます。

 

この映画の主人公はポーランドのユダヤ人強制居住区から脱走した8歳の男の子、スルリック。行き倒れていた彼を助けたヤンチック夫人によって、“ポーランド人の孤児、ユレク”として訓練され、ひとりでも生きていけるように架空の身の上話を覚えていくのです。ユダヤ人であることを隠して、夫人に教わったようにキリスト教のお祈りをとなえ、寝床と食
べ物を求めて家を訪ね歩くユレク少年。
その賢くて健気な姿を見ていると、とても胸が痛みました。生き延びていくための過酷な状況が描かれていますが、夫人のように心優しい大人がいたことは、この物語の救いになっていると思います。

純粋無垢な少年が犠牲になるお話だからか、『わたしを離さないで』を思い起こすシーンも。映画を観たあとで、主人公の少年を双子の兄弟が演じていたことを知ってびっくりしました。寂しそうな顔や森を駆け抜ける元気な姿など、主人公の豊かな表情には、そんな秘密が隠されていたんですね。

『ふたつの名前を持つ少年』
ユダヤ人の少年がポーランド人と身分を偽り、ナチスの追っ手を逃れて終戦までを生き抜いた実話を映画化。原作は世界的ベストセラーとなっており、日本でも『走れ、走って逃げろ』として出版されている。オーディションによって選ばれた双子の兄弟が、主人公の少年をふたり一役で演じたことも話題に。

取材・文/細谷美香
このページは、女性誌「FRaU」(2015年)に掲載された
「エンタメPR会社 オフィス・ヨネクラ」を加筆、修正したものです。