米倉涼子さんが、過去に観た映画を紹介するアーカイブ コレクション。
そのときに観た映画から、米倉さんの生き方、価値観が垣間見えます。

The Weinstein Company / Photofest / ゼータイメージ

ブロードウェイの舞台に立つ夢をかなえるため、ダンスや歌を学びに通っていたニューヨーク。’07年に訪れたとき、クリムトの名画「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」がやってくると聞いて、ノイエ・ギャラリーを目指しました。
絵画には詳しくない私ですが、クリムトは一目見たときから心惹かれていた画家。ヨーロッパの雰囲気があるこぢんまりとした美術館に、とても似合っている絵画のように思えました。
その肖像画がなぜノイエ・ギャラリーに展示されることになったのか、その道のりを描いた映画が『黄金のアデーレ 名画の帰還』です。この映画を見てはじめて、ナチスに奪われた絵画が本来の居場所に戻るまでのいきさつを知ることができました。

 

主人公は、クリムトが描いた伯母の肖像画“黄金のアデーレ”を返してほしいとオーストリア政府を訴えたマリア。駆け出しの若き弁護士とともに戦う過程が描かれていきます。
マリア役のヘレン・ミレンはもちろん、初々しさのある弁護士を演じたライアン・レイノルズも意外なハマり役。現代のシーンと、マリアが幼い頃を回想するシーンのつながりもスムーズで、観ているとまるで昔のウィーンに旅をしている気分になれます。
日常生活からパーティの様子まですべてが美しくて、室内の美術にも目を見張りました。

実話ものは好きなジャンルのひとつなので、今までもナチスを題材にした作品をたくさん観てきました。そのなかでもいい映画だなと私が感じた作品の共通点は、戦争が始まる前には幸せなひとときがあったんだと感じさせてくれること。
『ヒトラー暗殺、13分の誤算』にもドイツののどかな田舎町に、ナチスの足音が聞こえてくる様子が描かれています。美味しいものを食べたり、恋愛をしたり、そんなありふれているけれどかけがえのない瞬間の描写があるからこそ、戦争の悲惨さが対比となってより痛みが伝わってくるのだと思います。

『黄金のアデーレ 名画の帰還』
“オーストリアのモナリザ”と称えられ、国の美術館に飾られているクリムトの「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」。アメリカに住む女性マリア・アルトマンは、ナチスによって奪われたその絵を本来の持ち主である自分に返してほしいという訴えを起こす。実話をもとにしたヘレン・ミレン主演作。

取材・文/細谷美香
このページは、女性誌「FRaU」(2015年)に掲載された
「エンタメPR会社 オフィス・ヨネクラ」を加筆、修正したものです。