米倉涼子さんが見た、最新のおすすめエンタメ情報をお届けします。

『ジュディ 虹の彼方に』© Pathé Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019
 

レニー・ゼルウィガーがミュージカル女優、ジュディ ・ガーランドを演じた『ジュディ 虹の彼方に』、アカデミー賞主演女優賞受賞も大いに納得の名演でした! 『スキャンダル』のシャーリーズ・セロンのように特殊メイクをしているわけではないのに、ジュディ・ガーランド本人そのものに見えたのはなぜなんだろう……。きっとレニー自身のこれまでのキャリアのなかで刻まれてきたしわや生き様が、ぴったりとジュディと重なったんでしょうね。

 

『ブリジット・ジョーンズの日記』で脚光を浴びて『コールド マウンテン』ではオスカー女優になったのに、その後は劣化したなどと言われていたレニー。『シカゴ』のときに、もしもダンサーだったらケガをしそうな体型だな、と思った細い体や背中を見ながら、きっと彼女にとって今出会うべくして出会った作品なんだろうなと感じました。女優が女優を演じるというプレッシャーに、努力を重ねて打ち勝ったレニーは素晴らしいと思います。

 

『オズの魔法使』でスターになりながら、晩年はツアーの巡業で何とか暮らしていたジュディ・ガーランド。体重も睡眠も薬でコントロールされていた過酷な少女時代を回想しながら、幼い子供を元夫にあずけてロンドンのステージに立った最後の日々が描かれていきます。

 

彼女のパフォーマンスを見て私の頭に浮かんだのは、美空ひばりさん。そしてひとりで子供を育てながら生きていく姿を見て、ホイットニー・ヒューストンのことも思い浮かべました。波乱万丈な人生だからこそ人の心に響く歌を届けられたのかもしれないけれど、それは皮肉なことでもあるのかな、と。レネーが全曲を見事に歌い上げていることにびっくりしたのですが、リハーサルの一年前から歌のトレーニングを始めたと知って、ものすごくうらやましくなりました。観てくれる人たちに喜んでもらうためには、それくらいの準備期間が必要なはずなのに、どうして日本ではそれが難しいのか……。ちょっと複雑な気持ちになってしまいましたね。

 

辛いエピソードも多い映画ですが、結婚と離婚を繰り返した彼女の最後の夫との結婚式や、会場が一体感に包まれるコンサートのシーンには幸せな時間も流れています。パーティのシーンにさりげなく登場するライザ・ミネリは、彼女の実の娘。そのことを知って観ると、その後の展開もさらに胸が締め付けられます。ジュディ・ガーランドを知っている人はもちろん、あまりよく知らないというミモレ世代の人たちも、ひとりの女性の濃密な生き様にぜひ触れてみてください。“大人の映画”を観る充実感が味わえると思います。

 

『ジュディ 虹の彼方に』

17歳で映画『オズの魔法使』の主役に抜擢され、一躍スターになった女優で歌手のジュディ・ガーランド。華麗なキャリアを築く一方で、映画スタジオから受けていたハラスメント、5人の男性との結婚と離婚……47歳の若さで亡くなるまでの波乱万丈の人生を描いた伝記映画。全国公開中。

取材・文/細谷美香
構成/片岡千晶(編集部)