小説家の吉本ばななさんと、ホ・オポノポノの実践者で友人の平良アイリーンさんによる『ウニヒピリのおしゃべり ほんとうの自分を生きるってどんなこと?』(講談社)が刊行されました。刊行に先立ち、お二人と平良アイリーンさんの母で、本の中でも度々話題にのぼる平良ベティーさんの三人による講演会「自分に嘘はつかない、粋な生き方」が開催されました。その模様を前編と後編にわけてレポート。前編では、吉本さんが「自分に嘘をつかない」ために心掛け、実践していることを中心にご紹介します。

 
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【SITHホ・オポノポノとは】
ネイティブハワイアンの伝統的な問題解決法「ホ・オポノポノ」。これを、ハワイ伝統医療のスペシャリストで「ハワイの人間州宝」(1983)故モーナ・ナラマク・シメオナ女史が現代社会で活用できるようにアレンジしたのが「セルフ アイデンティティ スルー ホ・オポノポノ(SITH)」です。平良ベティーさん(写真左)は、SITHホ・オポノポノ・アジア事務局代表、 平良アイリーンさん(写真右)は、広報担当を務めています。



人の目を気にして空気を読んでいたら、
書きたい気持ちがダメになっていた


平良アイリーンさん(以下、アイリーン) 今すぐ嘘をつく思考をやめたいと強く思って生きてるんですが、「嘘はつきたくない」と思った出来事はありますか。

吉本ばななさん(以下、吉本) 私にとっての嘘は、「仕事ってこういうものだ」「みんなやっているんだ」「そうやってみんなでこの業界を回しているのだから、抜けてはいけない」という気持ちでした。本を作ることは、原稿を書き、ゲラが何回か出て、打ち上げして、本が書店に並び、サイン会をして…と流れがかなり決まっていて、ある時、刷り上がった本を手にして「また本を出したな」と思ってしまったんです。「次は出せないかも」と思わなければいけないのに。このままのやり方で、小説家を職業として続けていけば、書く気持ちすらもダメになってしまうと思いました。

そんな時、サイン会の代わりに名刺交換会をしたり、実験的なことをしてらっしゃる森博嗣先生に出会い、やり方を変えようと決心したんです。誰かに帯を書いてもらったら、そのお礼に書くといった日本的な仕事の在り方から離れることは、本当に大変でしたね。「このままのほうが楽だな」と、途中で何度もやめようと思いましたが、書くことをやめないで済むように、事務所をたたみ、自分でメディアを作り、10年かけてやり遂げました。

続けてみて、何かを変えようというのは、“試練”ではなく“過程”だとわかりました。その過程で、一番きつかったのは、人の目でした。「そんなことして大丈夫?」という人の目だったり、「今まで通りにやろうよ」という編集の人たちからの空気。もし、あの10年間で空気を読んでいたら、とても耐えられずあきらめ、同じことを続けていたと思います。


流れに抗わず、自然に最も近い
自分のカラダに任せるという生き方


子供を育てながら働く吉本さんとアイリーンさん。そして、アイリーンさんを育てた母親の大先輩、ベティさん。3人は、出産・子育てによる生活の変化への対応についても語らいます。

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アイリーン 最初の子が生まれた時、ばななさんは「流れを操作しない」といったようなことを仰り、今、起きている目の前のことに集中することの大切さを教えてもらいました。子供との生活という新しい流れが目の前にあって、それに追われているのに、新しい仕事を持ってこようとする、私の過剰なエネルギーやアクションを減らしていくといいんじゃないかって。

吉本 私にも子供が生まれ、それまでのように小説が書きづらかった時期がありました。でも、子供がいるなりの書き方がわかったことは、とても勉強になったんです。年を取って、体が思うように動かなくなったときに活かせるんじゃないか。そういうふうに捉えると、思うようにならなかった日でも「今日は今日でよかった」と思えるんじゃないでしょうか。人間って自由にしていたいから、中断を強いられるのはとても厳しい。小さい子供は何かこぼしたり、中断を強いてきます。だから、いっそうのこと、 “何もしない”のがいいと思うんですよね。

平良ベティーさん(以下、ベティー) 吉本さんといると「何も期待しない。それでもすべてが上手くいく」という、宇宙に対する深い信頼が感じられます。

吉本 宇宙や自然以外に信頼できるものは何もないと思っています。私は、ウニヒピリ(インナーチャイルド(内なる子供))を自分のカラダと捉えているんですけど、自分の中ではカラダが一番、自然に近いものだと思うんです。そのカラダに任せておけば、基本的に間違いがないという信頼がありますね。カラダが朽ちる時は、それをも信頼すればいいんですよ。「来週の火曜日にまた会いましょう」と、会うタイミングを決めてしまうのは、人間だけのような気がします。動物を見ていると、「今はたまたま隣りにいるけれど、明日はいないかもしれないしいるかもしれない。それはわからないよね」という空気の中に生きているから自由でいられる。だけども、人間の心には、捻じ曲げようとする気持ちがすごく強くあるように思えてなりません。

そして、気持ちがふさいでしまう人へのアドバイスを求められた際には、吉本さんは「小説を書くことは、内面と向きあう、とても寂しい作業」と言います。

吉本 沈んでいると誤解されることもあるんですけど、そういう時って、モノが細かく見えるんです。花の額とか、葉っぱひとつひとつの形とか、細かく静かに見えてくるんです。作家が文章を書くために潜っていく時というのは、省エネモードというか、エネルギーを低く保って、いろんなことを見て探る時間な感じがします。その感覚は、ふさぎ込んでしまうこととは違いますが、やはり、自分のことばかり考えていると、気持ちを病むように人間はできているので、少しでも、他人のことを考えるといいのではないでしょうか。「あの人、今日はどうしているのかな」とか「この草、枯れそう」とか。自分以外のことを考える余裕があれば、外からエネルギーが入ってくるんじゃないかと思います。

最後、アイリーンさんから「自分に正直に、ストレスフリーに生きるために心掛けていることは?」という問いが投げかけられました。

ベティー 私は、毎日、ベッドメイキングをして掃除機をかけてから出掛けるんです。帰ってきた時にきれいなお部屋に戻れるのが、すごく嬉しくてワクワクします。

吉本 「ストレスフリーな生活なんてない」と思っていると、多少のストレスには耐えられます。そして、“楽しさ”ですよね。“楽しさ”に勝る薬はないと思います。“楽しさ”というのは、自分が思ってたより夢中になれること。犬にブラシをかけるとか、ベティーさんのベッドメイキングとか、本当にちょっとしたことでいいんです。心から楽しいと思えることを一日の内に増やしていけば、自然と他の(楽しくない)ことは駆逐されていくという気がしてならないです。

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吉本ばなな 1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)を受賞。著作は三十数ヵ国で翻訳出版されており、イタリアで93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞(Under35)、99年マスケラダルジェント賞、2011年カプリ賞を受賞している。近著に『切なくそして幸せな、タピオカの夢』『吹上奇譚 第二話 どんぶり』ほか。

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平良アイリーン 1983年、東京生まれ。明治学院大学文学部卒業。2007年にホ・オポノポノと出会って以来、生活のあらゆる場面で実践中。現在はSITHホ・オポノポノ・アジア事務局広報担当として、日本をはじめアジア各国の講演会の際に講師に同伴し活動している。また、ヒューレン博士やKR女史のそばで学んだ自身の体験をシェアする講演活動を行っている。著書に『ホ・オポノポノジャーニー ほんとうの自分を生きる旅』、翻訳書に『ホ・オポノポノライフ ほんとうの自分を取り戻し、豊かに生きる』『ハワイの叡智ホ・オポノポノ 幸せになる31の言葉』ほか。

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平良ベティー IZI LLCが主宰するSITHホ・オポノポノ クラスの認定コーディネーター。2008年にSITHホ・オポノポノ アジア事務局を設立し、代表を務める。日本、韓国、台湾、マレーシア、シンガポール、中国などアジア諸国にて同クラスを運営し、日々クリーニングを実践している。
 

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<新刊紹介>
『ウニヒピリのおしゃべり』

吉本 ばなな  平良 アイリーン 著 1800円 講談社


世界で知られる小説家の吉本ばななさんと、ハワイに伝わる問題解決法「ホ・オポノポノ」を通じて、自分らしさを模索する平良アイリーンさん。ホ・オポノポノの鍵となる、ウニヒピリ(内なる子供)との対話によって、なぜ生きやすくなるのか、二人が語らい合った対談集。仕事、人間関係、子育てと、何かに悩む人に響く言葉が詰まっている。2010年、『Grazia』に掲載された吉本ばななさんとの短編小説「ウニヒピリ 自分の中の小さな子ども」も再録。


取材・文/小泉咲子
 撮影・構成/川端里恵(編集部)