米倉涼子さんが、過去に観た映画を紹介するアーカイブ コレクション。
そのときに観た映画から、米倉さんの生き方、価値観が垣間見えます。
大好きな『アジョシ』のイ・ジョンボム監督の『泣く男』。チャン・ドンゴンが、中国系犯罪組織に身を置く殺しのプロフェッショナルを演じています。
アメリカでのミッションを遂行しているときに誤って小さな女の子を殺したことから始まる物語は、ハードなアクションの連続。思わず目をつぶってしまうような痛みを感じるシーンや、手に汗握るビルの中の格闘シーンもたっぷり詰め込まれています。
驚かされたのは、チャン・ドンゴンの『ブラザーフッド』の頃と変わらない現役感。ルックスも肉体も、殺し屋としての仕事っぷりも、とにかくすべてがかっこよかった! 前髪が短めのヘアスタイルのせいか、全身に入れたタトゥーのせいか、何だか前より若返ったような……。
この人、ここまでされても死なないの!? と『ダイ・ハード』を思い出すシーンや、『ブレードランナー』のような無国籍な雰囲気が楽しめるシーンもあります。英語のセリフも流暢で、韓国語のセリフとのバランスもとてもナチュラル。そういうところの上手さも含めて、なかなか日本では観られないタイプの映画だなと感じましたね。
『アジョシ』ではウォンビンの相手役が小さな女の子だったのに対して、今回軸になるのは女の子を失ってしまった母親への思い。男の友情や仁義だけではなく、女性への情のようなものが描かれているのも大きな違いだと思います。
主人公のキャラクターも物語もいい意味で古典的な感じがして、犯罪組織とつながる投資会社の社長や組織の仲間など、脇の俳優たちの芝居まですべてに手抜きなし。久しぶりに、韓国映画はやっぱりこうでなくっちゃ! と、濃い世界を堪能しました。
このページは、女性誌「FRaU」(2014年)に掲載された
「エンタメPR会社 オフィス・ヨネクラ」を加筆、修正したものです。
『泣く男』
ナイトクラブでのミッション遂行中に、幼い少女を巻き添えにしてしまった殺し屋のゴン。罪悪感に囚われた彼が、組織と決別するために引き受けた最後の仕事は、少女の母親をターゲットにした非情なミッションだった。主演のチャン・ドンゴンはアメリカの特殊部隊でのトレーニングなど、アクションの特訓を重ねて撮影に臨んだ。