実はルーヴル美術館って、あのヴェルサイユ宮殿が作られる以前、フランス王宮が置かれていた場所だって、知っていましたか? つまりそこにある作品は、古くは王家が、その後は国が買い上げた「お墨付き」の傑作ばかり。でも、大きいし、作品の数が多いし、絵のどこを見たらいいのかわからないし……という人も多いのでは? 今回はそんなルーヴルを攻略するための本『マンガでわかるルーヴル美術館の見かた: 西洋絵画がもっと愉しくなる!』の編集・ライティングを担当した私、“小鳥”こと「青い小鳥アート研究室」が、独断と偏見で選んだ大好きな作品をご紹介します。

ルネサンスのヒロイン、赤×青の、大胆コーデの女性の正体は?


ルーヴルで絶対に見た方がいい絵は?と聞かれたら、「モナ・リザ」に決まってるんでしょうけども、実は小鳥は「モナ・リザ」はそれほど……だって、ええと、美女って言われても眉毛ぜんぜんないし、なんていうか……まあそんな感じなのですが、同じルネサンス期で個人的にうっとりしちゃう絵は、こちら。ラファエロの『美しき女庭師』です。

かーわーいーいー。主人公の女庭師、その色白でふんわりした肌、うっすらピンクのふっくらほっぺ、足元で戯れる赤子のむちむちふわふわぶり。ラファエロは理想の女性美を描く超人気画家(その上めちゃめちゃイケメンで)なのですが、その中でもこの作品の母子は抜群にかわいい。足元には草花がわさわさあるし、若くてきれいなお母さん、庭師やりながら多胎児育てるんだね……と思ったりしますが、キリスト教の方ならばこの女性を一瞥して「聖母マリア」とわかるのです。

 

これどういうことかというと、例えば日本でも、誰かが金髪で全身真っ赤のスーツ着てたらカズレーザーのマネだな!と思うし、魚の帽子かぶって「ぎょぎょ!」とか言ったらさかなクンだな!とわかりますよね、それと同じ。西洋絵画で描かれるキリスト教やギリシャ&ローマ神話の神々などは、それぞれのお約束の衣装や持ち物があり、これ「アトリビュート」といいます。赤いドレスに青いマントの大胆コーデで、ぷっくぷくの幼児をつれていたら、それは聖母マリアのお約束。

というわけで、ダ・ヴィンチの描いた、聖母マリアも赤✕青コーデ。

絵の中央の女性が聖母マリア。いい年のマリアを膝にのせているのは、彼女のお母さんの聖アンナ。ちなみにこの方も、一説によればマリアを処女懐胎しており、ゆえに聖母マリアはその産まれから「無原罪」な、神聖な存在なのだそうです……。

うさちゃんといるこの方も、赤✕青コーデの聖母マリア。

ヴェネチア派の大巨匠ティツィアーノによる『うさぎの聖母』。うさぎは多産の象徴。籠の中には、罪の果実リンゴと、贖罪の果実ブドウが。向こうの方には迷える子羊を連れた羊飼い。

キリストの亡骸を抱える、この方も、赤✕青コーデの聖母マリア。

プロヴァンス派の巨匠アンゲラン・カルトンの『アヴィニヨンのピエタ』。聖母マリアと一緒にキリストを十字架から降ろす図(ピエタ)のレギュラーメンバー、マグダラのマリアと福音記者ヨハネ……てか、手前のオジさん誰!?と思いますね。この方が絵の発注者で、ピエタは彼の頭の中の図。描写もオジさんだけリアルです。

ちなみに「美しき女庭師」で向かって右側の、なんだか茶色いターザン風の服を着たもう一人の赤子は「洗礼者ヨハネ」。ラクダの革の服と十字架の杖が目印です。
ということで、ダ・ヴィンチが描いたこちらも「洗礼者ヨハネ」。

ちょっと見えにくいのですが、この方もラクダ姿。 ちなみに「洗礼者」のほかに「使徒」「福音記者」のヨハネがいて、それぞれのアトリビュートの違いで見分けられます。

アトリビュート以外にも、例えばリンゴは「罪」「堕落」、頭蓋骨は「死(特にアダムの死を示すことも)」「人生の儚さ」、犬は「貞節」、羊飼いは「楽園」などなど、様々なものが象徴として登場します。いくつか知っていると、同じ絵が違って見えてきますよ~。

青い小鳥アート研究室

アートを中心に、カルチャー全般を手掛ける、編集、ライティングユニット。フランス滞在経験を持つ編集者と、長年カルチャー分野の原稿執筆に関わるライターを中心に、書籍、雑誌記事の制作に携わる。アートってなんだかちょっと難しい、自由な見方をしたら怒られそう、敷居が高い……そんな人たちにも面白く、分かりやすくをモットーにお届けしますー。誠文堂新光社より『マンガでわかるルーヴル美術館の見かた』が発売中。来年にかけて、同シリーズのオルセー美術館、ロンドンナショナルギャラリーが刊行予定です。

 

<新刊紹介>
『マンガでわかるルーヴル美術館の見かた: 西洋絵画がもっと愉しくなる!』


ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』、ドラクロワの『7月28日 民衆を導く自由の女神』をはじめ、フェルメール、レンブラント、ラ・トゥール、カラヴァッジオといった世界的巨匠の名作がずらりとそろうルーヴル美術館。

本書は、「巨大すぎて、何を観たらよいかわからない」「作品も画家も知っているけれど詳しくはない」「有名な作品数点だけ観て、あとは流して観ていた」という方におすすめのルーヴルの入門書です。

マンガで楽しくわかりやすく、ルーヴルが誇る56点以上の作品の見かたや作者を解説。
観るのがもっと楽しくなる、絵に込められた仕掛けやメッセージが満載!
フランス旅行でルーヴルへ足を運ぶ際の予習復習や展覧会のお供に、また西洋美術史をざっくり学ぶのにも最適な一冊です。

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