世界的巨匠の名作がずらりとそろうルーヴル美術館。「巨大すぎて、何を観たらよいかわからない」「作品も画家も知っているけれど詳しくはない」という人も多いのでは……。そんな人におすすめのルーヴル入門書『マンガでわかるルーヴル美術館の見かた: 西洋絵画がもっと愉しくなる!』の編集・ライティングを担当した私、“小鳥”こと「青い小鳥アート研究室」が、独断と偏見で選んだ大好きな作品をご紹介します。

光と闇をドラマチックに描いた、バロックの野獣カラヴァッジョ


ルネサンスの前半は、その時代に活躍したダ・ヴィンチとラファエロに代表される「調和」「柔かさ」みたいなイメージが多く表現されています。でもケーキ食べた後はポテチを、お汁粉食べたら塩昆布食べたくなるのが人間というもの。ルネサンス後半には、ダ・ヴィンチより20歳ほど年下の「筋肉オタ」ミケランジェロが「どや!」と頭角を現しました。

フェルメールも影響された、鬼才カラヴァッジョの光と闇_img0
システィーナ礼拝堂の『アダムの創造』。ミケランジェロはバチカンの教会芸術を手がけましたが、「教会にこんなにも多くの真っ裸を描くとはけしからん!性器は隠すべきだろ!」と非難されました。それもどこかバロック的なエピソードです。

その力強く劇的な雰囲気は、「どや!どや!」って感じの「バロック」に引き継がれてゆきます。カラヴァッジョはその代表的な画家のひとり。ややいびつな真珠のことを「バロックパール」って言いますよね。ラファエロの描く美が控えめで理想的な真円の真珠だとすれば、カラヴァッジョは、どこか歪で強く存在を主張する、まさにバロックパール。ルーヴルには彼の『聖母の死』という作品が収蔵されています。

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頭上のかすかな光輪があることを除けば、普通の女性の死としか見えません。周囲には聖人たちが配置されているのですが、彼らも市井にいる普通の人のように描かれています。

絵のセンターに横たわる亡骸は、赤✕青コーデがお約束の聖母マリア。でもラファエロが『美しき女庭師』で描いた聖母の優美さとはずいぶん違いますね。顔色は緑色っぽいし、下腹部が水死体のように膨れ上がっています(実際に娼婦の水死体をモデルに描いたという噂も……)。「聖母も人間」と思っている小鳥なんかにすれば「まあ死んでる人のリアルだからね」と思うんですが、これを見たキリスト教徒たちは「神々しく美しくあるべき聖母の死を、その辺の人間みたいに描くとは!」と大激怒。発注主である教会もブチ切れて受け取りを拒絶し、大スキャンダルになりました。

でも宗教的には不謹慎なのかもしれませんが、ラファエロの絵にはない迫力、ドラマチックさに、小鳥はグッときてしまいます。画面上部からは、たっぷり襞を取った謎の赤い布が緞帳みたいに下がっててゴージャスだし、何より左上部から聖母に向かってまっすぐ差し込む光は、なんだかスポットライトみたいだし。実はカラヴァッジョ最大の特徴は、この明暗のコントラストなんです。

影響を受けた画家もたくさん。17世紀に活躍したジョルジュ・ド・ラ・トゥールの『大工聖ヨセフ』とか

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漂う静謐な空気に、敬虔な気持ちに。ろうそくの灯はキリストの象徴でもあります。鉋屑のリアルさにも注目!

日本でも人気のヨハネス・フェルメールの『天文学者』とか

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日本人が大好きなフェルメール作品は、左上からの光がお約束。高価な顔料ラピスラズリをふんだんに使った「フェルメール・ブルー」が素敵。

このあたりの作品は、カラヴァッジョがいなければ描かれていなかったかもしれません。そして、そんな非難の嵐の中で絵に惚れ込んで購入したルーベンスも、カラヴァッジョがいなければ、「王の画家にして画家の王」と呼ばれるバロックの大巨匠になることはなかったかも。

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こちらはルーベンスによる24連作『マリー・ド・メディシスの生涯』のうちの1枚『マルセイユ上陸』。波打つ筋肉とぜい肉!ルーヴルではこの連作を飾った豪華絢爛な「メディシスの間」があります。

「俺には師もいないし、その必要もない。俺は“実物”に従って書くのだ」とのたまったカラバッジョは、その神をも恐れぬ破天荒さでバロックの時代を切り開いてゆきます。(ちなみにその野獣なお人柄で次々とトラブルを起こし、恐ろしい話も山ほど残しています……)。

アイコン画像

青い小鳥アート研究室

アートを中心に、カルチャー全般を手掛ける、編集、ライティングユニット。フランス滞在経験を持つ編集者と、長年カルチャー分野の原稿執筆に関わるライターを中心に、書籍、雑誌記事の制作に携わる。アートってなんだかちょっと難しい、自由な見方をしたら怒られそう、敷居が高い……そんな人たちにも面白く、分かりやすくをモットーにお届けしますー。誠文堂新光社より『マンガでわかるルーヴル美術館の見かた』が発売中。来年にかけて、同シリーズのオルセー美術館、ロンドンナショナルギャラリーが刊行予定です。

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『マンガでわかるルーヴル美術館の見かた: 西洋絵画がもっと愉しくなる!』


ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』、ドラクロワの『7月28日 民衆を導く自由の女神』をはじめ、フェルメール、レンブラント、ラ・トゥール、カラヴァッジオといった世界的巨匠の名作がずらりとそろうルーヴル美術館。

本書は、「巨大すぎて、何を観たらよいかわからない」「作品も画家も知っているけれど詳しくはない」「有名な作品数点だけ観て、あとは流して観ていた」という方におすすめのルーヴルの入門書です。

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