1977年の発売以来、累計発行部数なんと228万部! 今なお多くの人に読み継がれている大ベストセラー絵本『100万回生きたねこ』。大人になった今こそ読みたいその魅力と深い味わいを、講談社・幼児図書チームの担当編集者が熱烈解説いたします!

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ぼーっと生きていて、
人生の後半戦でこの絵本を読むと、
悔恨の涙を流すことになる(かもしれない)。

みなさま、こんにちは。
今日は、この6月に絵本の部署に異動、いきなり講談社の絵本の金字塔的存在である『100万回生きたねこ』の担当になってしまったわたくし担当Kが、この危険な絵本の魅力について、半年間で感じたことをみなさまと共有できたらと思います。

「100万回生きたねこ」 佐野洋子:作・絵

ご存じない方のために冒頭ちょこっとご紹介しますと、

100万年も しなない ねこが いました。
100万回も しんで, 100万回も いきたのです。
りっぱな とらねこでした。
100万人の 人が, そのねこを かわいがり, 100万人の
人が, そのねこが しんだとき なきました。
ねこは, 1回も なきませんでした。

 

そんなとらねこが、王さまや、船のり、サーカスの手品つかいなんかに飼われた猫生を送り、ある日、だれのものでもないのらねこになったとらねこは、白いねこと出会います。
そして、おそらくは恋の力で、とらねこは変わった! という絵本なのです。

というわけで、今回は絵本の話なんですが、人生と恋についての話になります(たぶん)。

その前に、もう刊行してしまった本の担当編集ってなにするの? と思われる向きもあるかと思いますので、日常業務をご報告いたします。

とらねこくんは大人気なので、そらもう、えらい大変です。正直、こんなに大変とは思いませんでした。
「雑誌に本を掲載したい」、「テレビでクイズに使いたい」、「読み聞かせの会で読みたい」、「授業でとりあげたい」、「演劇にして文化祭で発表したい」などなどなど、『100万回生きたねこ』でなにかやりたいと思いついてくださった方から、ファックス、電話、メール、あらゆる方法で連日連絡をいただきます。

この冬は、丸善 池袋店さんから「コラボカフェをやりませんか」というお申し出があり、楽しい&おいしいメニューの試食をしたり(試食だけ?)。 
(ちなみに、特典のランチョンマット&コースターは、ここでしかもらえないオリジナルデザイン! 丸善のほこる“早矢仕ライス”に、しましまのマッシュポテトをまぜまぜして食べられるのは今だけですよー)
※コラボカフェの詳細は、記事の最後をご覧ください

過去には、全国各地での美術館での展覧会は数限りなくありましたし、三度のミュージカル化(1996年 沢田研二/山瀬まみ、2014年 森山未來/満島ひかり、2015年 成河/深田恭子)や、さらには、ドキュメンタリー映画(2013年)まであったりして。

先日は、交響曲の演奏許可申請までいただきました。

交響曲まであるのか! おそるべし、『100万回生きたねこ』!

ミュージカルや交響曲、ドキュメント映画がある絵本って、ほかにあるんでしょうか?

ぜいたくな作家陣によるトリビュート短篇集もありますし、先月は、『恋って何ですか?』(河出書房新社)というアンソロジー本のなかで、七海ひろきさんが『100万回生きたねこ』について、「一生に一度の恋」というタイトルで、熱くご紹介くださり、話題になりました。

……あ、そうでした、「恋」の話でした。
 

かわいくもなく、親切でもない絵本


キャンディーズが「ふつうの女の子にもどりたい」と日比谷野外音楽堂で解散を宣言した年1977年に、初版5000部という、ごくごくふつうの部数で発売された絵本が『100万回生きたねこ』でした。昭和52年ですね。
映画では『八甲田山』『人間の証明』がヒットし、クイーンが『伝説のチャンピオン』を、テレビではピンクレディーが『渚のシンドバッド』を熱唱、学校では生徒諸君が『生徒諸君』を読んでいた、そんなあのころ。

発売したときには、まさかその後40年以上も第一線で売れ続けて、世界で420万部も売れる絵本になるなどと、だれも考えていなかったのではないかと思います。

絵本の部署へ異動してきて知ったのですが、100万部を軽くこえる名作絵本というのは、かなりたくさんあります。
『いないいないばあ』(1967)『ぐりとぐら』(1967)『しろくまちゃんのほっとけーき』(1972) 『はらぺこあおむし』(1976)などなど、だれもが知っているミリオンセラー絵本だけで本棚が作れてしまうくらいです。

でも、でもですよ。
大人になったときにそういった絵本たちを見て、「なつかしい!」と歓喜することはあっても、泣ける、とか、プロポーズするとき使ってほしい、なんて女子が願ったりする絵本、ほかにないですよね。
 

自分がほんとに求めている人生がわかってしまうおそろしさ


恋愛って人生の幸福度をかなり左右する要素だと思うのですが、学校ではなにも教えてくれませんよね。ふつうの人はそれほどたくさん恋をすることもないでしょうし、友人たちの話だって、それほどバリエーションに富んではいない。
だから、恋愛小説や恋愛映画はなくならないんだろうと思います。

だれにでも読める形で、そして人間ではなく、ねこのお話だから、究極にシンプルな形で最高の恋の形を体験できる絵本。
それが『100万回生きたねこ』じゃないかと思うのです。

大人の方からは、「泣ける」という感想が圧倒的に多いです。
もしあなたも泣けてしまったら、「泣ける」というだけで満足しないで、ちょこっと立ち止まって考えてみてほしいのです。

なぜ泣けるのか?

とらねこ、本当の愛を知ってよかったな、と感じた共感の涙?
それとも、本当に大事なものをなくして、つらかったね、と感じた涙?
自分の涙がなんだったのか、なんとなくで満足せず、考えてみてほしいのです。

あるいは、なぜ泣けなかったのか?

それを考えたら、人生に対して、自分がいちばん求めているものが、わかっちゃうかもしれません。だからこれ、大人にとっても、こわい絵本なんだと感じています。

だって、ほんとうは、こういう愛がほしかっただけなんだって人生後半戦でわかっちゃったらどうします? まだ巡り会えてないのに――。

あなたはどんな風に、絵本『100万回生きたねこ』を読みましたか。
いつか、ぜひ、聞かせてください!
 

試し読みをぜひチェック!
▼横にスワイプしてください(実際の絵本は右開きです)▼

絵本『100万回生きたねこ』コラボカフェ開催中

コースター
ランチマット
 

「100万回カフェ」
期間:2019年11月23日(土)~2020年1月9日(木)10:00~21:00
※1月1日(水)店休日/12月31日(火)、1月2日(木)、1月3日(金)は18:00閉店
場所:マルゼン カフェ 池袋店
住所:東京都豊島区南池袋2丁目25-5 藤久ビル東5号館1F
TEL:03-5962-0915
メニュー例:
・「とらねこの早矢仕ライス」¥1300
・「船のりのオープンサンド」¥700
・「白いねこのレアチーズパフェ」¥800
※オリジナルランチョンマット&コースターは数量限定、無くなり次第終了。


丸善池袋店 https://honto.jp/store/detail_1570187_14HB310.html

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文/日下部由佳(講談社)