いっそ「今は時代が違うから」で済ませてみよう


『私がオバさんになったよ』を読んだ後、ふわっと心が軽くなる理由が、まさにこの“自分のせいじゃない”と気付けること。悩みそのものは解決しなくても、決して自分のせいではないと分かるだけでどれほどラクになれるか。そしてどれだけ“自分で自分のせいにしているか”ということにも気付かされます。

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「悩んでいる人は誰でも、というよりむしろ私が、出口のない悩みを抱えた時に“なんで私だけ”とか“どうして私は”というふうに、常に私、私、私となってしまうんです。でもよくよく因数分解していくと“あ、これは私の資質だけのせいじゃないな”“そういう風にできてるものなんだ”と分かることが多くて。そうすれば悩みも客体化できるし、どう対処すべきかが見えてくるんです。

例えば、高度経済成長期を過ごしてきた親とそうでない自分とじゃ、いくら親子といったって価値観が異なる。教師からの体罰を「よくあること」と経験した世代の感覚と、今の学生の常識が合うわけもない。こういうギャップに対しては、“そもそも時代が違うんだ”と考えるところから始めたいですね。「あの人とは気が合わない」なんて相手と自分の資質にと照らし合わせたりせずに、今の常識を“こういうものか”とあえて鵜呑みにすることで、諦めたり手放せたり、アップデートできることもあるのかなと思うんですよね」

『システム』や『構造』というと、何かとても大きなものを想像してしまいますが、これはごく小さな世界、例えば夫と妻という極めてプライベートな関係にも存在するといいます。

「これも本に書きましたが、〈「立場」が人の考えや言動をつくる〉ということもあるので。パートナーとうまくコミュニケーションが取れないとなっても、個人の資質の話ではなく、互いが理解し合えなくなった仕組みがどこかにあるはずだ、と考えてみるんです。

これはラジオなどでよく話していることですが、家事って仕事とは少し違って、どうしてもメインでやっている人の独自ルールで回っていることが多いんですよね。洗濯一つとっても、洗う時はぬるま湯だけどすすぎは水だよ? みたいな(笑)。そういう一つひとつの手順やOKラインの共有ってすごく難しいし、手伝う側だって、自分の家なのにいつでも下手くそ扱いされるんじゃ、そりゃやりたくなりますよね。ちなみに私は、何を手伝っていいかわからないという男性には『飲み終わったペットボトルのラベルをはがして中洗って潰せ、とりあえずそれだけはやっておけ』と言ってます。話はそれからだ、と(笑)」

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自信が持てないのも、あなたのせいじゃない


最後に、さまざまな悩みの根本的な原因について訊いてみました。きっと多くの女性が知りたいであろう、“効率的な自信のつけ方”というものはあるのでしょうか。

「これはもう自分で自分に証明していくしかないですね。“私はできる”ということを証明するために、一つひとつやっていく。それしかないと思います。

それ以前に“私なんかが”と思ってしまう人も多いかもしれませんが、やっぱりこれも“システム”なんですよ。これまで女性は男性より前に出たり、自信満々になることをよしとされてこなかった。だから女らしくて好ましいとされてきた人ほど自分に自信を持てていないし、そんなの当然の話で。なぜこんなに自信が持てないのかということを、一度根をつめて考えてみてほしいですね」

自分にとっては“長年の常識”であっても、少し離れてみればそれは“刷り込まれた価値観”でしかない。こういった構造は想像以上に多いのかもしれません。それに気付くことで「資質や努力とは全く関係ない、私のせいじゃないということに辿りつける人はたくさんいるはず」と、ジェーンさん。そのための手掛かり、もしくは取り急ぎのカンフル剤となるコンテンツも教えてくれました。

「自信がないという人はとりあえず、ビヨンセのライヴ・ドキュメンタリー作品『ホーム・カミング』(Netflixで独占配信中)を観たほうがいいです。これは元気出ますよ! あとはこれもNetflix作品ですが、フランス映画『軽い男じゃないのよ』もおすすめですね。私たちがどういう状況に置かれているか、ということが本当に分かりやすく見える。思考を変えるためのいいエクササイズになると思いますよ」

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『私がオバさんになったよ』を読んで気持ちがラクになった……そう話す人が多いのは、みんな十分すぎるほど頑張っていて、それでもどうにもできないことをわかってもらえた、そんな気持ちになれるからなのでしょう。ジェーン・スーさんが日々発信してくれる“ふっと肩の力を抜くための処方箋”、これからも楽しみですね!

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<書籍紹介>
『私がオバさんになったよ』
著者 ジェーン・スー 幻冬舎刊 定価1400円(税別)


『小説幻冬』での対談連載を書籍化。光浦靖子、山内マリコ、中野信子、田中俊之、海野つなみ、宇多丸、酒井順子、能町みね子という錚々たる、かつバラエティ豊かな顔ぶれとともに、人生の折り返しを経た“今”を語りつくす。

撮影/金 栄珠
文/山崎 恵
(この記事は2019年7月5日に掲載されたものです)
 
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