この話だけを聞くと、お先真っ暗という状況に思えますが、必ずしもそうではありません。現在、窓口での自己負担は原則3割ですが、日本には高額療養費制度というものがあり、重篤で費用がかさむ治療の場合には、そのほとんどが払い戻され、個人の負担は最小限で済みます。

高齢者負担2割へ。医療費の引き上げはどこまで進むのか_img0
 

筆者の母は7年間の闘病の末、がんで亡くなっているのですが、がんの治療には高額な抗がん剤が用いられるため、かなりの費用がかかります。実際に病院に支払われた総額を筆者が算定したところ、何と1000万円近くになっていました。本来であれば、3割の自己負担分だけも相当な金額になっていたはずですが、現実にはそのほとんどは払い戻されており、母が実際に自己負担したのはごくわずかな金額に過ぎません。

 

つまり高額療養費制度が残っている限り、現実の自己負担はかなり少ない金額で済むのです。

よくメディアの記事で、無理にがん保険に入る必要はないという専門家の意見が紹介されますが、その理由は高額療養費制度の存在にあります。世の中では無数のがん保険が売られていますが、現実には、がんの治療費はほとんど返ってきますから、無理してまで民間のがん保険に加入する必要性は薄いと思ってよいでしょう。

仮に病院の窓口での自己負担が全員3割となり、それが4割、5割と拡大した場合でも、今の制度を維持できれば、重篤な病気については、引き続き、ほぼゼロの自己負担で治療できますが、自己負担率が高くなると、風邪などで気軽に病院に行くことは難しくなると思われます。

病院というのは、あまり軽々しく行くところではなく、イザという時に頼りになる存在です。健康な時はあまり意識しませんが、深刻な病気にかかった時に病院に行けないことほど恐ろしいことはありません。逆に考えれば、普段は過度に病院に通うことは控えた方がむしろ健全でしょう。

筆者は財務省や厚労省の回し者ではありませんが、誰でも十分な治療を受けられる日本の医療制度は高く評価しています。仮に月々支払う保険料や窓口での自己負担が上がったとしても、今の制度を維持していく方がわたしたちにとってメリットが圧倒的に大きいと考えます。

前回記事「インフルエンザ流行の「特効薬」は、働き方改革かもしれない」はこちら>>

 
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