私たちの日々の選択によって、未来は作られる。世界的な気候変動や低迷する経済状況、食料危機を考えると、タイムリミットは迫っているとアドリアーナさんは感じているとか。大きなマインドシフトが必要、という警報が彼女を突き動かしているといいます。

 

「もちろん、私が考えている計画も火星を地球の代替案にするためではないですし、全人類が火星に移住して生活することは現実的ではありません。ただ、もし、火星で少しの水で食料を生産できて、誰もが平等に権利を与えられる教育システムがあり、幸福に生きることができるというモデルができれば、それを地球へ戻って、『十分に呼吸もできて、水もあって、食べ物も自然に育つ土地で、どうやって貧しくなれるわけ?』と批判することができますよね(笑)。火星の砂漠の大変な生活の上でもテクノロジーで人々が生き延びていたら、地球でよりよく生きるためにその科学技術を使うことができる。サステナブルな考え方を徐々に発展させていくことが目的です」
 

挑戦はいつだって、自分を成長させてくれるもの。


気温も低く、十分な水と二酸化炭素もない火星への移住は恐ろしく思えるものですが、アドリアーナさんは宇宙移住のシミュレーションをすべく、2020年12月から地球上で最も過酷な環境のひとつである南極での生活実験へ出かけます。一筋縄ではいかない夢を確実に具体化していく、その秘訣はなんなのでしょう。

「私がより難しい選択をしているのは、いつだって挑戦をするのが好きだから。挑戦はいつも凝り固まった考えを変えさせてくれるし、知識と能力を成長させてくれます。私たちは、誤った方向に歩いてきて、恐れや利己主義の中で生きていますよね。新しい可能性を探ったり、世界に驚かされたり、興奮したりすることを長らくしていなかったんじゃないかと感じています。子ども時代を振り返ると、子どもって、誰でも本能的に自然に探検するし、怖がることなく何ができるのかを知りたいという好奇心でいっぱいじゃないですか。子どもの頃に持っていた大きな夢を思い出せば、いつも疑問を持ってすべてに愛のある態度で関わっていたことを思い出せば、一歩踏み出せるんじゃないかなと思います」

 

アドリアーナさんの好奇心の芽を絶やすことなく見守ったご両親は、日々宇宙へと近づく彼女の活躍を温かく見守ってくれているそうです。

「いつも応援してくれているので、決断をしたときも、『あなたらしい』と納得されました。火星へ行ったら寂しくはなるだろうけれど、コミュニケーションは取れますし。母は、『子どもの夢を止めるなんて、どんな母親なの!?』というタイプなので。でもほとんどの母親は、そういう風には考えませんよね。『私の娘は火星には行かせません!』というほうがきっとメジャーですよね(笑)」


撮影/中垣美沙
取材・文/小川知子
構成/山崎 恵

 

前回記事「火星を目指す女性科学者を育てた母の言葉『女の子にはムリ、なんて言わせたらダメ』」はこちら>>

 
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