■2020年オススメの舞台<小劇場編>


最後にふれておきたいのが、小劇場の世界。多くの人にとって恐らく最も敷居が高く、最も当たり外れが多い……と忌避されているのが、この小劇場演劇ではないでしょうか。しかし、これは個人的な意見ですが、演劇の真髄を味わえるのもまた小劇場演劇だと思います。

商業主義になびくことなく、つくり手たちが自分たちが本当に面白いと思うものをとことん追求できるのが小劇場演劇の面白さ。いわゆるメジャーな作品ではお目にかかれないようなユニークな傑作が、小劇場の世界では続々と生まれています。

また、人気の高い商業演劇は本番の何ヶ月も前からチケットをおさえておかなければならず、そのチケットも容易に手に入るわけではありません。その点、小劇場演劇は当日券も手に入りやすいところが多く、その日気が向いたらふらっと足を運べる気軽さがあります。

そんな小劇場演劇からはこの1月に観られるオススメの舞台を2本ご紹介!
 

ゴジゲン第16回公演「ポポリンピック」

 

ドラマ『バイプレイヤーズ』をはじめ、蒼井優主演の『アズミ・ハルコは行方不明』、池松壮亮主演の『君が君で君だ』など数々の話題作を手がけてきた映画監督・松居大悟。2020年5月には『またね家族』で小説家デビューを果たすクリエイターが、学生時代に立ち上げ、今なお自らの表現欲求をぶつける場として活動し続けているのが、ゴジゲンです。

 

ゴジゲンで描かれるのは、いかにも物語の主人公になりそうな、メインストリームをひた走る人々ではありません。むしろ教室の隅っこで誰にも注目されず日陰の人生を送っているような人々にスポットを当て、滑稽で、情けなくて、だけど愛さずにはいられない不器用な彼らの人生を、松居大悟らしいおふざけと本気の絶妙なバランスで浮き彫りにするのが、ゴジゲンの魅力。

最新作「ポポリンピック」は、2020年らしくオリンピックがモチーフです。しかし、そこでマラソンや水泳のような花形競技に行かないところがゴジゲンらしさ。今回、彼らが取り上げるのは、一度は東京オリンピックの追加種目として候補に入りながらも落選の憂き目に遭ったボウリングです。まったくトレンドでもなければ、華やかとも言いがたいボウリング。そんなマイナー競技を愛し、なんとか東京オリンピックの正式種目に押し上げようと奮闘する人々の姿を通じて、選ばれない人々の人生の虚しさややるせなさ、そして尊さを描いていきます。

ゴジゲンのいいところは、そのバカで、ほろ苦くて、優しい世界。気はいいけれど、そのせいでいろいろ人生損している男たちが集まって、たとえ世間が「まだやっているの?」と鼻で笑っても、自分たちが面白いと思っているものを本気でやりきる。そんな姿に、幸福感に似た眩しさを覚えるのです。

わかりやすく言うと、“チーム男子感”。大の大人たちが、飽きもせずにわちゃわちゃしているのが好きな人なら、絶対に彼らのことがいとおしくてたまらなくなるはず。ぜひ昔からの友人を訪ねるような気持ちで、劇場に遊びに来てください。きっと彼らならどんな人も分け隔てなく、温かいはにかみ顔で迎えてくれるはずです。

<公演情報>
脚本・演出:松居大悟
出演:目次立樹、奥村徹也、東迎昂史郎、松居大悟、本折最強さとし、善雄善雄、木村圭介(劇団献身)
東京公演:2020年1月3日(金)~21日(火)こまばアゴラ劇場
札幌公演 シアターZOO提携公演:2020年1月25日(土)~27日(月)扇谷記念スタジオ シアターZOO
京都公演:2020年2月8日(土)~9日(日)THEATRE E9 KYOTO
http://www.5-jigen.com/next.html


EPOCH MAN 新春ひとり芝居『鶴かもしれない2020』

 

EPOCH MANとは、舞台俳優・小沢道成が自分がつくりたい演劇を形にするために立ち上げたソロプロジェクト。俳優である小沢道成が自ら脚本を書き、演出をつけ、舞台美術まで制作します。

今回の『鶴かもしれない2020』は、昔話の『鶴の恩返し』がモチーフ。命を助けてくれた男のために、自らの羽根をむしって機(はた)を織った鶴になぞらえ、愛した男に尽くす女の悲哀を、時に諧謔的な笑いをまじえながら、身を切るような痛みをもってえぐり出していきます。

見どころは、そのオリジナリティ溢れる演出プラン。“新春ひとり芝居”と銘打つ通り、本作は完全なるひとり芝居。ただし、一般的なひとり芝居とは大きく趣の異なる点が。それが、舞台上に設置した3台のラジカセを使いながらお芝居を進めていくところです。

ラジカセからは、事前に小沢本人によって録音された相手役の台詞が流れていきます。その台詞に呼応しながらお芝居を進めていくわけですが、すでに収録されている音源なので、一度再生ボタンを押したらその後の臨機応変な対応は不可能。もし台詞を間違えたり間合いを外したら、それだけで掛け合いのタイミングはずれ、一気に世界観は台無しになる非常にリスキーな演出です。

そんな薄氷を踏むようなスリルと背中合わせになりながら、まるで本当にそこにその人がいるように、ラジカセと息の合ったやりとりを繰り広げていくところが、このお芝居の面白さ。普通のお芝居にはない緊張感と高揚感がつまっているのです。

ただ一途に愛を捧げる女の姿は、重すぎる愛でズタボロになったことがある人、幸せになりたいと願っているだけなのになぜか報われないと思っている人には共感必至。痛々しい女の姿に何度も切り刻まれそうになりながらも、最後はそんな自分を愛しく思える、見たことのないひとり芝居が下北沢であなたを待っています。

<公演情報>
脚本・演出・出演:小沢道成
2020年1月9日(木)〜1月13日(月・祝)下北沢 駅前劇場http://epochman.com/index.html/


以上8作品が、これから新しい楽しみを見つけたい観劇ビギナーに贈る2020年のオススメ舞台。気になる舞台があったら、ぜひ劇場に足を運んでみてください。気づいたら、日がなスケジュール帳を見ながら観劇計画を立ててはニヤニヤする、そんな今とは違う生活にどっぷり浸かっているかも!
 


文/横川良明
構成/山崎 恵
 

 

ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。twitter:@fudge_2002


前回記事「【2020年の注目舞台】演劇ライターが選ぶ、ビギナーも絶対楽しめる上半期おすすめ作品」はこちら>>

著者一覧
 

映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。twitter:@fudge_2002

メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。18年に大腸がん発見&共存中。

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『連続テレビ小説 なつぞら上』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。

 
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