史上初、アジア映画がアカデミー賞作品賞を獲ったことで話題の「パラサイト 半地下の家族」。映画会社に23年間勤め、昨年末に著書『なぜオスカーはおもしろいのか? 受賞予想で100倍楽しむ「アカデミー賞」』を発売した“オスカー予想屋”ことMs.メラニーさんに、パラサイトが初の快挙を遂げたアカデミー賞の裏側を教えてもらいました。

©アフロ


今年も一年で一番楽しい日、アカデミー賞授賞式が終わりました


今年の話題と言えば何と言っても「パラサイト 半地下の家族」がアカデミー賞の歴史を塗り替え、外国語作品で初めての作品賞に輝いたことでした。国際長編映画賞―いわゆる外国語映画賞を含め、韓国映画がオスカーにノミネートされたのは今回が初。さらに輪をかけての快挙は、6部門ノミネートと言う、外国語映画としては異例の多部門ノミネートと共に訪れました。そして授賞式の当日、この作品は更に大きなハードルを乗り越え、世界中のどの国の作品も成し遂げたことのない快挙を達成したのです。ポン・ジュノ監督が舞台に上がる度に沸き起こる拍手と喝采を目の当たりにし、この作品がいかにハリウッドで愛されているかを感じて胸が熱くなりました。

「パラサイト」がこの快挙を成し遂げたのには、いくつかの理由があると思います。まず第一に大きく影響したと思われるのは、ここ5~6年の間にアカデミー協会が進めてきた、会員の多様化です。以前は圧倒的に白人男性が多かった会員も、2013年からアカデミー協会の会長を務めた黒人女性のシェリル・ブーン・アイザックスが大改革を行い、女性や有色人種を急速に増やしたのです。以前の会員構成だったら、外国語映画が作品賞を獲るなど、考えられなかったと思います。さらに、「パラサイト」が描くテーマが、近年どの国でも身近に感じられる社会の不均衡問題を捉えていたことも、共感が得られた大きな理由でしょう。そう言った要素を考慮した上で私が一番大きいと感じるのは、やはり「パラサイト」と言う作品が10年もしくはそれ以上に一本の究極に素晴らしい作品だったから、と言う理由です。私個人としても、昨年見た作品の中で圧倒的に一番面白いと感じた作品でしたし、それが理由で最終的には作品賞の個人予想も「パラサイト」にしました。

作品賞を含め、最多4部門を受賞した「パラサイト 半地下の家族」©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED


大作揃いのなかで最も小規模だった「パラサイト」

その昔、アカデミー賞でのノミネートが、大作のスタジオ映画+少数の独立系作品だった時代は、独立系の作品にとっては“Win on Saturday, Lose on Sunday” (土曜に勝って、日曜に負ける)が定説でした。これは、アカデミー賞授賞式の前夜に必ず行われる、インディペンデントスピリットアワードと言う独立系映画賞の授賞式を指していて、独立系の雄は前夜では最強だけれど、オスカーとなるとノミネーションが精いっぱい、と言うことを現した言葉でした。例えば2000年の「グリーンデスティニー」や2003年の「ロストイントランスレーション」。両作品ともインディペンデントスピリットアワードでは作品賞を受賞しましたが、ノミネートされたオスカーでは「グラディエイター」「ロードオブザリング/王の帰還」と言う、大作に作品賞を獲られました。
”オスカーの作品賞は王道作品が獲る”―アカデミー賞は長いこと、そういう賞だったのです。しかし、2010年を過ぎると、この2賞の差がどんどんなくなり、「バードマン」「スポットライト」「ムーンライト」など、土曜にも日曜にも同じ作品が勝つようになります。つまり、最近の傾向としては、小さな製作費の独立系の作品こそが、オスカーの本命になってきていたのです。

 

そんな中、今年の2賞のノミネーションの顔ぶれはかなり違っており、インディペンデントスピリットアワードではオスカーで無視されたアダム・サンドラーやアジア系アメリカ人女性監督の作品「The Farewell」など、独立系の特色が出ている作品が受賞していました。今年のオスカーの顔ぶれが大作揃いだったことを特徴的に示していると思います。ただ、それでも結局オスカーの作品賞を獲ったのは、9作品の中では一番「アート系」であり製作費の小さい「パラサイト」と言う結果になりました。これはなかなか興味深い点だなと思います。

 
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